![]() レンズターレットが強烈な印象を残す、"Bolex H16 Reflex"。 スチールカメラではなく、16mmムービーカメラです。 レンズターレット付16mmシネカメラといえば、以前書いた"我が青春のアリフレックス16ST"に登場する"Arriflex 16ST"もそうでした。 "Arriflex 16ST"に対する愛着が400%とすると、Bolex H16に対する愛着は、0.1%ぐらいでしょうか。 つまり、まったく愛着がない。 この極端な違いは何なのか? このカメラ、実は仕事で使ったことがありません。 年に1回、どんなカメラでもいいから16mmが回せるものを集めろ、というイベントで見かける他は、仕事場では見かけないカメラでした。 H16 Reflexに限らずボレックスはどちらかというとアマチュア用カメラです。 シングルショット機能、フェードイン/フェードアウト機能などを備えた非常に多機能なカメラではありますが、プロの現場では使われませんでした。 作りが精密すぎ華奢なためプロユースには堪えないのですね。 プロ用カメラというのは、Arriflex 16STのように、「いついかなるときも必ず回る」でなければ話になりません。 プロ用機材は多機能であると勘違いをされている人がときどきいますが、どのような分野であれ、プロ用機材はシンプルかつ頑丈なものが多いです。 とにかく壊れない、壊れても簡単な工具で修理ができる、低機能な分は人智人力でカバーするというのがプロ用機材だと思います。 これ、軍用機材にも通じる話です。 ちなみに映画製作の世界では、フェードイン/フェードアウトなどの特殊効果はオプチカルプリンターという装置で編集時コマ単位で精密に作成します。 撮影時に現場で効果を作るということはまずありません。 このボレックス、例によって義父からリーパク中のもの。 そのうち、なし崩し的に自分のものにしようという魂胆です。 義父が言うには、ボレックスというのは、「1950~1960年代にアメリカ人観光客が帯同させてきたカメラ」なんだそうです。 言われてみれば、パンナムあたりの少し古めの旅客機、DC-6などのプロペラ機が似合いそうなたたずまいです。 アロハシャツにサングラスのアメリカ人観光客が、ボーディング・ブリッジなどではなく、オープンタラップを降りてくる姿が目に浮かびます。 コカコーラ片手に、ラッキーストライクをくわえ、「ヘイ!フジヤマゲイシャ!私撮るYO、ベイベ~」などと言いながら下りてくるシーンです。 いかん、何だかコンプレックス丸出しのテキストになってきました。 話を元に戻します。^^ このカメラ、アメリカ人観光客に愛されましたが、アメリカ製というわけではありません。永世中立国、スイスの名産品です。スイスといえば時計の国。精密機械工業に関しては伝統のある国です。銘板の下の方に、誇らしげに記された"Made in Switzerland"の文字が見えます。 設計者は、ジャック・ボゴポルスキー(Jacques Bogopolsky)。日本では、ジャック・ボルスキー、ジャック・ボルシーとしての名前の方が有名かもしれません。かの"ALPA ALNEA / REFLEX"、"Bolsey B2"などのオリジナル設計者です。 ジャック・ボルスキーといえば、一風変わったカメラを作ったという認識が一般的ですが、あくまでも相対的なものだと思います。オスカー・バルナックが作ったカメラ(ライカですわな)でさえ、当時としては充分変わったカメラだったのですから。 中央に見えるのが、スプリングモーター用クランクハンドルです。このハンドルをグ~イグ~イと巻き上げ、レリーズボタンを押すと、カタカタカタと軽快な音を発してカメラが回ります。スプリングモーター駆動というと何やら高級そうですが、早い話がゼンマイ駆動。 さすがはスイス時計工業。シネカメラまでもゼンマイ駆動にしてしまう。というのは嘘で、1940年代~1950年代はゼンマイ駆動というのは至極ポピュラーな動力源でした。そうした時代に9V積層充電池駆動であったアリフレックス16STははるかに尖った存在だったといえます。 Bolexの外観を特徴づける、ターレット式レンズです。ターレットレンズは、ズームレンズが実用的でなかった時代、迅速にレンズ交換を行うために考え出された機構です。ターレットボードには焦点距離の異なるレンズが取り付けられています。このボレックスH16レフレックスの場合は下記4つのうちから3つを選択します。------------------------------ 10mm=広角:135判換算30mm相当 16mm=標準:135判換算48mm相当 25mm=中望遠:135判換算75mm相当 50mm=望遠:135判換算150mm相当 ------------------------------ ターレット式レンズ最大の特徴は、無闇矢鱈と格好良くなることです。Arriflex 16STも、以前書いた戦場を駆けた35mmシネカメラ"Eyemo(アイモ)"もターレット式レンズボードを持っていました。アイモについては下記に詳細を書いています。興味のある方は参照してみてください。 Xylocopal's Weblog 2005/02/06 "高信頼性戦場シネカメラ・アイモ" http://xylocopal.exblog.jp/561826/ ![]() Bolex H16 Reflexのレンズはすべて、Kern Arau社製。 ALPAのレンズとして知られるマクロスウィターを始め、蒼々たるレンズ群、Arriflex 16STに付いている、Schneider Kreuznach Cine Xenonとタメを張る名レンズ群です。 その内訳は下記のとおり。 Kern Arau Switar 10mm F1.6 Kern Arau Switar 16mm F1.8 Kern Arau Switar 25mm F1.4 Kern Arau Macro-Switar 50mm F1.4 Kern Arauとは、スイスのアーラウにあったレンズメーカーです。 主にシネカメラ用のレンズを生産していましたが、ごく少数、135判用レンズも製作しました。 中でも、マクロスウィターは究極の美ボケレンズとして知られています。 それにしても、美しいレンズです。 白黒コンビネーションが何ともいえず粋です。 レンズキャップまでも美しいですね。 Kern Pillardのエンボスロゴが渋く輝き、実用品とはいえ、ある種の工芸品を思わせる精緻な仕上がりです。 Paillardとは、Bolex H16を製造したメーカー、パイヤール社のことです。 パイヤール社はスイスの精密機器メーカーで、オルゴール、時計用ムーブメント、タイプライター、オートマタ(自動人形)などの製造で知られています。 なお、レンズキャップにはネジ溝が刻まれており、ぐるぐる回さないと着脱できません。 Macro-Switar 50mm F1.4です。135判用レンズとして名高いMacro Switar 50mm F1.8/1.9のシネレンズバージョン、というよりムービー用マクロスウィターの方がオリジナルです。 マクロスウィター50mm F1.8/F1.9は、ケルン・アーラウが作った数少ない135判レンズで、とろけるような柔らなボケが魅力のレンズでした。 5群7枚のアポクロマート。つまり、色収差なし。なしってことはないでしょうけど、可能な限り色収差を少なくしたレンズがマクロスウィターでした。最短撮影距離0.285m、ユニークな被写界深度表示機構を持ち、現代もなお非常に優秀なレンズの一つとして知られています。 マクロスウィターはマクロレンズとして設計されたものではないと聞いています。オリジナルはマクロ機能のない普通のスウィター。スウィターのヘリコイド繰り出し量を増やしただけのものだそうです。つまり、無段階調整式中間リング内蔵レンズというわけですね。 そのため、近接撮影時の収差補正は完璧ではなく、ニジミからはじまるとろけるようなボケ方をします。この残存収差ゆえのボケ方がマクロスウィター愛好家にはたまらない魅力となっているようです。 元より優秀なレンズの上、製造個数が少ないため、マクロスウィターは高価です。 アルパマウントのもので$500~$1000前後、M42マウント用やエキザクタマウント用だと$1000を超えてしまうとか。 そうした伝説の名レンズ(の親戚)が手元にあるとなると、どうしても撮ってみたくなる悲しい性分です。^^ 16mmシネカメラ用レンズがAPS-Cのフランジバック、イメージサークルに合うわけがありませんが、M42=>EFマウントアダプターを改造して、シネ用マクロスウィター50mm/F1.4で写真を撮ってみました。 被写体は、"KMZ Jupiter-8 50mm F2.0"です。 ![]() Canon EOS Kiss X2 Kern Macro-Switar 50mm F1.4 絶世の美ボケといいたいところですが、光軸がずれてますね。 これはしかたがないです。 何しろ使った改造アダプタというのが、M42=>EFコンバータの真ん中に未使用モルトを貼り付け、穴を丸く切り開いただけのものですから。 機械的結合はなく、マクロスウィターは手で押さえつけているだけです。 つまり、グラグラの状態で撮った写真というわけです。 それでもアポクロマートの威力は充分発揮されているようで、気になる色収差は出ていません。 スイスが産んだ伝説の名レンズ、さすがです。
by xylocopal2
| 2008-06-19 10:43
| Hardware
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