Xylocopal's Photolog : 最終進化型バルナックライカ KMZ Zorki-4 前編の続きです。
軍艦部右側のクローズアップです。 左から、シャッタースピードダイヤル兼シンクロタイミング設定ダイヤル、シャッターレリーズボタン兼リバースクラッチリリースノブ、フィルム巻き上げノブ兼フィルムカウンターとなっています。 シャッタースピードダイヤルは不等間隔1軸回転タイプです。 バルナックライカが高速/緩速の2軸式だったのに比べると進化しています。 進化していますが、シャッタースピードラッチは不等間隔の上、1/125sec.以下の間隔が異様に狭く、どこに入っているのかさっぱり分かりません。 1970年代の等間隔1軸不回転タイプに比べると、まだまだ使いにくいです。 このダイヤル、シャッター動作時にはクルッと回転するので、手を触れないよう注意してください。 シャッター動作時に触ると、設定シャッタースピードより遅くなります。 触れるばかりか回転を止めてしまった場合には、バルブ動作になりますから、真っ白な写真が撮れてしまったりします。 このシャッターダイヤルは、シャッター幕駆動軸がそのままボディ外に現れていると考えてください。 シャッタースピードはダイヤルを持ち上げて設定するタイプです。 そのまま力任せに回すと壊れます。 まぁ、無理でしょうけど。^^ 緩速シャッター設定時に、「チチッ」「ジジッ」などとスローガバナーの音がする場合がありますがこういうものだと思ってください。 故障ではありません。 "Ihagee Exakta Varex IIa"などでも、この音が発生します。 また、シャッターチャージ後、つまりフィルムを巻き上げてからでないと、正しいシャッタースピードに設定されません。 チャージ前にも設定できてしまいますが、回転シャッターでそれをやっても無意味です。 巻き上げ後にシャッタースピードを設定するのは、バルナックライカ、およびその仲間ではひとつの「お約束」です。 1/30sec.だけは独立した場所に付いています。 Zorki-4では、この1/30sec.がシンクロ速度になります。 ストロボやフラッシュガンを使う際には、1/30sec.に設定します。 シャッタースピードダイヤル外周は、ストロボ/閃光電球などを使う際の発火タイミング調整ダイヤルです。 現在、5msになっていますが、ストロボで使うのであれば、0msに設定してください。 個体によっては、もっと分かりやすく、"X/M"などと記されているものもあるようです。 何故こんな奇妙なダイヤルがあるのか?というと、Zorki-4が設計された時代は、まだまだ"閃光電球"の需要が高かったからと思われます。 1950年代後半~1960年代前半は、日本ですらストロボよりフラッシュガン優位の時代でしたから、ソ連では言わずもがなですね。 閃光電球では、ストロボとは異なり、点火から最大輝度に達するまで10ミリ秒以上の時間がかかります。 そのため、シャッター幕が全開になるより前に先行点火する必要があります。 このダイヤルは、どれぐらい前に点火するかを決めるダイヤルです。 閃光電球では、最大輝度に達する時間がタイプごとに異なります。 このダイヤルは、閃光電球のタイプによって、以下のように設定します。 F級: 5-10ms M級: 20ms S級: 30ms FP級: 10ms ストロボは点火直後に最大輝度に達する特性がありますから、0msでOKです。 25msにすると、後幕発光のような効果になるのかなあ?と思いますが、よく分かりません。 シンクロターミナルにストロボを繋いでテストしてみたところ、すべてのモードで発光しましたが、どれぐらい先行発光しているのかは体感できませんでした。 あたりまえですね。^^ レリーズボタンの回りにあるのは、リバースクラッチ解除ノブです。 撮影後、フィルムを巻き戻すときに使います。 スプロケットをフリーにするスイッチですね。 ソ連製カメラでは、この位置にリバースクラッチ解除ギミックが付くのがお約束です。 日本製カメラでは、ボトムプレートにあるポッチを押すのがリバースクラッチ解除のお約束です。 リバースクラッチを解除せずに巻き戻しを行おうとしても動きません。 力任せに巻き戻すと、フィルムがちぎれます。 これをやった人、何人か私は知っています。^^ 銀塩メカニカルカメラに慣れた人でも、カメラが変わるとついやってしまうようです。 ご用心ください。 なお、フィルムを装填するとき、スプールが空回りして巻き上げられないことがあります。 そうしたときは、リバースクラッチリリースノブが完全に戻っていないことがありますから、確認してみてください。 これはゾルキのお約束です。 フィルム巻き上げはノブ式です。 レバー巻き上げの方が素早く巻き上げできて機能的には上なんですが、私はこの手の小型クラシックカメラでは断然ノブ式を愛するものであります。 この手のカメラに速写性を求めてもいいことなんか何もありませんよ。 第一、レバー巻き上げは不格好です。 ノブ式巻き上げを使ってこそ、粋というものです。^^ かつて、135判フォールディングカメラを集めていた頃も、レバー巻き上げのものはハナから買いませんでした。 私が持っている最も新しいレチナは、"Kodak Retina II Type 014"です。 ノブ式巻き上げの最終機ですね。 なので、レチナIIIC大窓なんて、丸っきり興味が湧きません。 写りは、Type 014の方がいいぐらいですし。^^ フィルムカウンターは順算式手動復帰というタイプです。 フィルム残数を示すのではなく、何枚撮ったかを示すカウンターです。 日本製カメラのように、裏蓋を開ければ自動的に0復帰はしません。 フィルムを装填し、2コマぐらい巻き上げたところで、指先で押さえながら0に設定します。 以後、1枚撮影するごとに目盛りが進み、36枚撮りフィルムの場合は、37枚あたりでそれ以上巻き上げられなくなるはずです。 40枚も50枚も巻き上げられる場合は、スプールが巻き上げていません。 たぶん、1枚も写っていないことでありましょう。^^ 裏蓋はガバッと外れるため、フィルム装填は非常に簡単です。 バルナックライカ最大の鬼門が見事にクリアされています。 バルナックライカのフィルム装填はなかなか面倒です。 目視せずにスプロケットにパーフォレーションをかますわけですから。 それに比べれば、ゾルキ4のフィルム装填なんて、APSカメラのオートローディングのように思えてきます。 裏蓋は板金加工などという軟弱なものではなく、アルミダイキャスト製です。鋳物ですよ。奢ったものです。 モルトなどといういかがわしいものは使っておらず、溝と溝の勘合により遮光するようになっています。遮光性は抜群に良く、光線引き皆無です。 モルトの経年劣化にも悩まされず、精神衛生上非常に気分の良いカメラといえます。 シャッターは横走り布幕フォーカルプレーン。 1963年製ながら非常に綺麗で、シワ、カビ、ピンホールなど一切ありません。 非常に丁寧な作りだと思います。 使われた素材も良いのでしょうね。 シャッター動作音は、バルナックライカの「パタッ!」というような音ではなく、もう少しガサツな音がします。 とはいえ、ミラーがないので、一眼レフよりはよほど静かです。 ファインダー右側に見える、プリズムに光が入っているような意匠が製造元である"KMZ"のマークです。 KMZは、モスクワ近郊のクラスノゴルスクに本拠を置く光学メーカーです。 KMZとは、"Красногорский Механический Завод"の頭文字をとったもの。 英語表記では"Krasnogorsk Mechanical Factory"。 日本語に訳すと、"クラスノゴルスク機械工場"ということになります。 クラスノゴルスク機械工場‥‥。 重工業にあらざるは工業にあらず、重工業至上主義のお国ぶりが窺い知れる、壮大にして無骨な名前です。 火力発電所用タービン製造工場の裏手で、黒々と光る大型旋盤を駆使して、カメラやレンズを作っているようなイメージです。 断じて、小綺麗なクリーンルームなどではなく、切削オイルの香り漂う、西日の差し込む薄暗い町工場のイメージです。 旧ソ連時代、KMZは、親方カマトンカチの国営企業、ソ連を代表する光学機器メーカーでした。 戦前の日本光学、東京光学以上の国策光学企業といってよいです。 軍事国家ソ連のことですから、KMZも軍事用光学機器、航空宇宙光学機器の比率が高いメーカーでした。 1959年に打ち上げられた月探査衛星、ルナ3号が初めて撮影に成功した月の裏側の写真は、KMZ製のカメラ"AFA-E1"によるものでした。 解像力なんてどこにもないボヤボヤの写真だったと記憶しています。 これは、電送系の問題だとは思いますが。 KMZウェブサイトの"History"の1959年の項にくだんの写真が載っています。 このカメラ、個体差かもしれませんが、なかなか盛大なアンダーパーフォレーションが出ます。アンダーパーフォレーションとは和製英語で、フレーム下端がパーフォレーション部分まで食い込んでしまう現象をいいます。 テキトーにフィルムを装填するとものの見事にアンダーパーフォレーション写真となりますので、こうした効果を狙うとき以外は注意が必要です。 アンダーパーフォレーションにならないよう意識して、細心丁寧にフィルム装填して撮ったものです。アンダーパーフォレーションは回避できていますが、全体に下に落ちた露光となっており、かなり危なっかしいです。こうした現象が出る場合は、フレーム下端ギリギリに主要被写体を置かないなどの注意が必要です。 スプロケット、巻き上げ軸、スプールです。 スプールを使うカメラは、1950年代~1960年代はけっこうありました。フィルムが高価なため、100feet缶で買ってきて、暗装カートリッジに詰め替えて使うユーザが多かったのですね。 Zorki-4のスプールは、総金属製のものから総プラスチック製のものまで実に様々なものがあります。私のものはベークライト製です。ベークライトというと古くさい感じがしますが、かつてはカメラの外装などにもよく使われた素材です。ベークライト、エボナイトなどといった言葉に身体が震える私はおじさんです。^^ それにしても、何とも無骨で古色蒼然たるたたずまいです。鍛造部品よりも鋳造部品の方が多く、とても精密機械には見えません。しかし、現像したネガを見ると、見事にコマ間隔が揃っています。ソ連の工業製品というのは、見かけで引いてしまうものが多いですが、中にはきちんと仕事をするものもあるんです。ゾルキとかソユーズブースタとか。 このサビが浮いたレトロなメカメカしさ、たまらんですね。第一次世界大戦の複葉機の雰囲気に似ています。このアングル、いかにも"倉科権之助機械工場"謹製といった感じで大好きです。 M39マウント、Lマウントと呼ばれるバルナックライカのスクリューマウントです。 このマウントに適合するレンズは、ライカ純正のものから、ソ連製、東独製、チェコ製、アメリカ製、フランス製、イタリア製、イギリス製など非常に多くの種類のものがあります。 もちろん、日本製でもニコン、キヤノン、ミノルタなどたくさんのLマウントレンズが使えます。 Lマウントレンズを安価に使う母艦として、Zorki-4はなかなか良い選択だと思います。 ただし、Zorki-4のファインダーは50mmレンズの画角しか表示しません。 そのため、広角レンズ、望遠レンズなどを使う際には、別途"アクセサリーシュー取付用外部ファインダー"が必要となります。 50mmレンズの場合も、外部ファインダーを使った方がフレーミングが格段に楽になると思います。 マウント上部に見えるのが、レンズの繰り出し量に応じて距離情報を距離計に伝えるためのカムです。このカムが偏角ミラーを動かし、二重像合致式距離計を動作させます。 このカム、ゾルキシリーズでは単なる金属片ですが、バルナックライカでは回転するコロになっています。そのため、滑らかな操作感が得られ、正確な距離情報を伝えることができるといわれています。 「ゾルキシリーズはバルナックライカの劣化コピーである」と声高に語る人々が最初に指摘するのがこのカムです。いわく軽く動かない、精度が出ない、長期間使うと摩耗する(はずだ)云々。 しかし、実用上はあまり問題がなかったようで、ゾルキシリーズでは最後までコロが付くことはありませんでした。ソ連人にとっては過剰機能と思えたのでしょうね。実際私のゾルキ4でも、製造後45年経った今なお、カムが摩耗した形跡は見受けられません。 ボディ左端にある巻き戻しノブです。 クランクは付いていませんから、引き抜いてからクルクル回すだけです。 私の個体はそこそこ軽やかに回ります。 その代わり、引っこ抜きが激重です。 最初はペンチを持ち出そうか?と思ったほどです。 すべての個体が激重なのかどうかは不明ですが、引っこ抜いて使うことを知らない人は、左の状態のまま苦労して巻き戻すのではないかと思います。 正しい使い方を知った方がいいと思います。 でないと、フルマニュアル銀塩カメラが嫌いになりますから。^^ 巻き戻しノブ基部にあるのは、前述した視度補正レバーです。 こちらはスカスカで、すぐに動いてしまいます。 できれば、巻き戻しノブをもう少し軽く、視度補正レバーをもう少し重くしてほしかった。 これじゃ、丸っきり正反対です。 こうした操作感のバラツキがソ連製カメラのソ連製たる所以でしょう。^^ 操作感がバラついても、上がった写真が良ければ私としては無問題です。 Zorki-4、安価で良いカメラです。 旧ソ連製カメラの中では出色の出来です。 バルナックライカほどの滑らかな操作感はないものの、他のソ連製カメラとは一線を画す使用感/安心感です。 人気が高いのも肯けます。 Zorki-4は、パチモンと貶されることが多いカメラですが、実はとっくにパチモンの領域を超えています。 バルナックライカで使いにくかった部分をアグレッシブに改良し、それでいながら小型軽量の良さは捨てていない。 そうした意味で、KMZ Zorki-4は、「最終進化型バルナックライカ」、「バルナックライカの最終型」といえるのではないでしょうか。 私にとっては理想的なバルナックライカです。 "Cosina Voigtlander Bessa R"も良いカメラですが、あれの出自はMF一眼レフ"COSINA CT-1"であって、バルナックライカというわけではありません。 採光式ブライトフレームは非常にうらやましいのですが。^^ "オスカー・バルナック"の愛した小型カメラの雰囲気を味わうには、Zorki-4あたりが限度か?と思います。 工作精度、仕上精度が劣っていても、あがる写真がよければ無問題、という実利主義の方、ぜひ一度、Zorki-4を使ってみるといいです。 旧ソ連という国に心惹かれて止まないという方もぜひどうぞ。 付属レンズのKMZ Jupiter-8 50mm F2.0に付いては下記に記しておきました。 Xylocopal's Photolog 2008/05/08 ゾナーの末裔 KMZ Jupiter-8 50mm F2.0 http://xylocopal2.exblog.jp/8813249/ 以下は、KMZ Zorki-4 + Jupiter-8 50mm F2.0で撮った写真です。 フィルムは、Konica Minolta Centuria Super 100、スキャナはEPSON GT-X750です。 このカメラ/レンズ、人間を撮ると特に良いような気がします。 とってもソビエトな気分にになれるオマケもつけておきます。 ストリチナヤとカスピ海産キャビアを併せて御利用になるといいかもしれません。 個人的趣味を押しつけていますから、スルーしていただいて全くかまいません。
by xylocopal2
| 2008-05-10 22:00
| Hardware
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