名古屋市千種区春岡通 "GLOBE MART"にて KMZ Zorki-4 KMZ Jupiter-8 50mm F2.0 Konica Minolta Centuria Super 100 EPSON GT-X750 先日入手した旧ソ連製レンジファインダーカメラ、"KMZ Zorki-4"で撮った写真です。 レンズはゾルキ4の標準レンズのひとつ、Jupiter-8 50mm F2。 特にレトロ仕上げを狙ったわけでもないのに、何だか猛烈にノスタルジックなトーンになってしまいました。 あまりにも発色が悪いので、無理矢理色を乗せていった結果、こんなことになってしまったのです。 私にオールドレンズで撮った写真のレタッチをやらせると、すべからくこの調子ですから、そのレンズ固有の発色傾向、階調表現傾向を見るには全く役立ちません。^^ とはいえ、このトーン、嫌いではないです。 撮影時の絞りは、F4~F4.5。 1枚目、3枚目は最短撮影距離の1mから撮っています。 オールドレンズといえども、さすがにJupiter-8クラスになると、被写界深度を外れたボケがぐるぐる円周を描いたりすることはありません。 深度を外れるに従い、ポヤポヤと柔らかくボケるだけです。 元の設計が素直なんでしょうね。 このレンズ、馬力はありませんがコントラストはそこそこ出ます。 コントラストが出る割には、線が細く繊細で上品な描写です。 一般に線が細いレンズは、解像力はあるけれどコントラストが出ないといわれています。 シュナイダーのクセナーなんかがそうですね。 Jupiter-8は、繊細な描写のわりにはコントラストも同時代のものとしては出る方だと思います。 このレンズのシリアルナンバーは6300万台ですから、1963年に製造されたことが分かります。 この時代の旧ソ連製カメラ/レンズはシリアルナンバー頭2つが製造年となっており、非常に分かりやすいです。 ツァイス製やシュナイダー製レンズの製造年はこんなに簡単には分かりません。 1963年製のレンズとはずいぶん古いものだなあ、と馬鹿にすることなかれ。 1963年頃というのは、旧ソ連にとっては栄光の時代です。 初の女性宇宙飛行士テレシコワがヴォストーク6号で地球を周回し、「私はカモメ」とやったのがこの年でした。 アメリカがどれだけ頑張ってロケットを作ろうと、すべての分野でソ連に先駆けられ後塵を喫する、それが1955年~1965年あたりの宇宙開発競争の実態でした。 栄光のソビエト連邦共和国の時代です。 ソ連製工業製品のクォリティは国家のステータスと正比例するようです。 ソ連製カメラというのは、1960年代初頭あたりが最も作りがよく、それ以後どんどん質が落ちていく悲しいカメラです。 ベルリンの壁崩壊直前には、同じ名前のカメラ/レンズであっても、1960年代のものとは比較にならないほど質が落ちていました。 そりゃあそうだよ、人間だもの。 「俺さの国は、偉大なるインテグラールが作ったどえらいロケットに、ライカ犬乗せて飛ばしとる。 俺さもカメラ作るの、頑張んべ」 というのと、 「あ~あ、また給料遅配かよ、嫌だ嫌だ。ウォッカでも引っかけてテキトーに仕事しよ。 あれ?うまく噛み合わないよ。ま、いいか。力ずくで押し込んどこ。俺が使うんじゃないもんな」 では、製品に対する気合いが違うよね。 できた製品も当然別物になろうというもの。 ですから、俺のJupiter-8は1988年製だ、新しくて良いぞ、などとはゆめゆめ思わないように。 半分腐ったようなポンコツレンズの方が実写は良かったりします。 上の写真を撮ったレンズ、KMZ Jupiter-8 50mm F2.0です。 マルチコーティングではありませんが、青紫色の単層コーティングが施されています。 白く光るアルミ鏡胴は高級感皆無ですが、動作には何も問題がありません。 よく知られているように、Jupiter-8 50mm F2.0は、戦前の"Carl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2のソ連版クローンです。 コピー、パチモン、海賊版などと呼ばれるように、ツァイスから正式なライセンスを得て製造されたものではありません。 ならば、リバースエンジニアリングのようなことをして、製造方法をパクったのか?といえば、そうでもありません。 正規のツァイスマイスターが、正規の設計図を元に製造した、Carl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2とまったく変わらないパチモンなのです。 そんなことが起こりえるのか?と思われるかもしれませんが、事実です。 第二次世界大戦末期、ソ連軍はイエナ/ドレスデンなどといった光学工業の盛んなドイツの諸都市を次々と侵攻していきました。 もちろん、ドイツの光学技術が欲しかったからです。 光学技術というのは、軍事目的のためには欠かせないもので、単に照準器などにとどまらず、原爆製造などにおいてもキラーテクノロジーとなりえる技術です。 そのため、街が壊滅したといわれるドレスデン大空襲の際にも、ソ連軍は光学産業関連の建物だけは慎重に爆撃を避けています。 これは米軍もまったく同様でした。 アメリカもツァイスグループを筆頭とするドイツ光学技術を高く評価していたのです。 そうした諸都市を攻略したソ連軍は、光学工場を接収し、設計者、技術者らをソ連国内に拉致しました。 元祖拉致国家というわけです。 まぁ、戦勝国というのはやりたい放題なのではありますが。 もちろん、ツァイスも例外ではありません。 技術者や設計図、工作機械、治具などはウクライナのキエフに運ばれ、ドイツ・ツァイス時代の"CONTAX"を作ることになりました。 ソ連の外貨獲得のための手段として働かされたわけです。 このキエフで作られた135判レンジファインダーカメラが、ゾルキと並び知られる"Kiev"です。 初期のキエフは断じてパチモンコンタックスなどではなく、コンタックスそのものでした。 ドイツ時代と同じ設計図で、同じ機械で、同じ治具で、同じマイスターが作るのですから当然の話ではあります。 ウクライナに連行されなかったツァイスの技術者は、人民公社組織としての、VEB(Volks Eigene Bertrieb) Carl Zeiss Jenaを発足することになります。 VEB Carl Zeiss Jenaには、後にウクライナから帰国を許された技術者が合流し、東独Carl Zeisss Jenaとして歩むことになります。 ごく少数、ソ連に拉致されるよりはアメリカに投降した方が良さそうだと考えたツァイスの技術者たちもいました。 彼らはほとんど着の身着のままの状態で闇夜に紛れて西側に脱出したといいます。 そして、後に西独オーバーコッヘンにて西側カール・ツァイスを起こすことになるのです。 ヤシカと提携したカール・ツァイスはこちらの流れです。 話は戻って、Jupiter-8 50mm F2.0です。 このレンズはキエフの標準レンズでした。 つまり、元を正せば、100%純粋のCarl Zeiss Jena Sonnar 5cm F2。 キエフ同様、ツァイスの技術によって作られた由緒正しいパチモンレンズです。 本来CONTAXマウント用だったものを、ライカスクリューマウント(L39マウント)にしたものが、今回使用したユピテール8です。 Jupiter-8 50mm F2.0には様々な種類があります。 製造した人民公社、マウントの種類、時代などによって微妙に描写が異なるといいます。 定評があるのは、オリジナルゾナーに最も近いキエフ用のユピテール8です。 私の師匠にして怪著「ソビエトカメラ党宣言」の著者、中村陸雄氏はユピテールの描写にこんなランキングを付けています。 "Fantastic Camera Gellery / Kiev + Jupiter-8 50mm/f2.0"より抜粋 今回撮影に使ったユピテール8はKMZ製ですから、アーセナル(KIEVを作っていた人民公社)の次に良いという評価が下されています。 アーセナルのものとどれぐらい違うのかは、使ったことがないのでよく分かりません。 下から数えた方が早い、リトカレノのユピテールは持っていました。 ただし、Lマウント50mm/F2ではなく、M42の85mm/F2。 MC Jupiter-9 85mm/F2って奴です。 師匠がいうほどには悪くなく、ローコントラストホワンホワンの描写ながら繊細さはあり、けっこう好きなレンズでした。 作例を下に置いておきます。 Xylocopal's Photolog 2004/12/20 カムニャくんの肖像 http://xylocopal2.exblog.jp/115871/ Jupiter-8 50mm F2、現代的な写りはしませんが、良いレンズです。 基本設計が70年前のレンズですから残存収差は多目です。 ツァイスが偉大だったのは、こうした残存収差を不快な形で表さない技術を持っていたことでしょうか。 カリッとシャープでボケも美しく、コントラストの出るレンズは他にいくらでもあります。 少し雰囲気の違うレンズを使ってみたい、という向きには、このレンズ面白い選択だと思います。 残存収差の加減からか、見事にレトロな雰囲気の写真が撮れます。 レトロでありながら、なかなか繊細な線の細い写真が撮れます。 近接よりも、2mぐらい離れた場所から人物を撮るといいです。 髪の毛の1本1本が綺麗に分離したほんわり柔らかい写真が撮れます。 誰か、ポートレート撮らせてくれ~。^^
by xylocopal2
| 2008-05-08 21:19
| Hardware
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