昨年大晦日に、「来年はあまりカメラを買わず、真人間になって‥‥」などと書いたにもかかわらず、またカメラ買ってしまいました。 そう、Ihagee EXA 1b。 東ドイツはドレスデンの特産物。 甲冑カメラ、"Ihagee Exakta"の姉妹品。 エキザクタを寸詰まりにして、大幅に機能を削った廉価版です。 典型的なローコスト/ロースペックのカメラで、シャッタースピードは、Bulb、1/30sec.、1/60sec.、1/125sec.、1/175sec.の5種類しか選べず、AEはおろか、露出計すら付いていません。 人力100%のフルマニュアルカメラです。 イハゲー社の製品ながら、エキザクタマウントではなく、M42マウントを採用しています。
このカメラ、ゴシック的荘重さと同時に社会主義的安物感が漂い、たいそう古めかしく見えます。 それもそのはず、シリーズ中、最も古い"EXA 0"が作られたのが1951年、今の形になった"EXA 1"が作られたのが1962年ですから。 つまり、このカメラのデザインは1950年代のセンスをベースにしているわけです。 とはいえ、上の写真の個体は意外に新しく、1980年代初頭の生まれです。 EXAシリーズ シリアルナンバー対照表で調べてみると、1981年~1982年頃の製造と思われます。 1950年代デザインのカメラを1980年代になっても作って売る、というのは東ドイツの国民車"トラバント"に通じるものがあります。 もちろん、発売当時、西側陣営のカメラとの競争力など無きに等しいものでした。 手持ちのM42マウントカメラでいえば、"Revue Revueflex SD1"、"CHINON CS-4"あたりが同世代のカメラになりますが、これらに比べると、EXA 1bは涙が出そうなほどの野暮ったさ、すがすがしいまでのロースペックぶりです。 "Revueflex SD1"は西ドイツで売られていましたから、東ドイツの人も目にする機会はあったことでしょう。 実際に使ってみなくても、外観から中身の違いを想像することは可能です。 壁の向こうのカメラはああなのに、壁のこちら側のカメラはエクサ1bである‥‥、なるほど、ベルリンの壁が崩壊するはずです。 でもね、カメラってスペックじゃないんですね。 このカメラ、愛玩用としては最高なんです。 小振りでころっとした可愛らしい形を見ていると、それだけで気分が和みます。 こんなふざけた形のM42マウントカメラって、あまりないですから。 "BOLSEY 35"、"SIGNET 35"と並ぶ三大おむすび系カメラだと思います。 それに、時代も変わりました。 上で、野暮ったいだの古くさいだの書いた部分は、現代では粋にすら見えます。 このカメラ、基本デザインは優秀だと思います。 さすがは、バウハウスデザインの国ではあります。 イエナ製の縞々ゼブラなレンズを付けると、非常によく似合い、最高にクールな逸品だと思います。 パンコラーやフレクトゴンでもいいですが、カメラのステータスを考えると、ここはテッサーが一番でしょう。 メイヤー・ドミプランあたりでもいいですね。 あまり高級なレンズは似合わないカメラです。 ウェストレベルファインダーを選べるというのも、愛玩用カメラとしてはポイントが高いです。 ウェストレベルファインダーというのは、リバーサルフィルムを透過光で眺めるのと似ており、被写体が実物より美しく見えてしまうことが往々にしてあります。 フィルムを入れずに、空シャッターを切って遊ぶには最高のファインダーです。 若い頃、二眼レフをメインで使っていた私にとって、こうしたファインダーは郷愁を誘う懐かしいものです。 おむすびころりんな後ろ姿です。 エキザクタは左巻き上げでしたが、エクサは一般的なカメラと同じく右巻き上げです。 巻き上げレバーの中央はフィルムカウンターです。 自動復帰しない減算カウンターという化石のようなものが付いています。 フィルムを入れるたびに、36とか24とかフィルム枚数を合わせる必要があります。 ウェストレベルファインダーの作りはなかなかいいです。 折りたたむのも、起こすのも一瞬です。 ルーペを出したままでも、自動的に折りたたまれるようになっています。 東ドイツという国は、ハイテク関係はダメダメでしたが、こうしたローテクな工作物を作らせると上手でしたね。 あまりにも気持ちよく動作するので、無意味に開けたり閉めたりしてしまいます。 工芸品的手技で作られたカメラは、現代にこそ必要なのではないでしょうかね~。 ウェストレベルファインダーとプリズムアイレベルファインダー、そしてフォーカシングスクリーンです。 フォーカシングスクリーンは、左がスプリットイメージ、右がマイクロプリズムです。 いずれも、コンデンサーレンズまで一体となった分厚いものです。 これらは、EXAシリーズ/EXAKTAシリーズ双方で互換性があります。 国内オークションではあまり見かけませんが、ebayなど海外オークションでは、常時ある程度の数が出品されています。 探すときには、エクサ用だけではなく、エキザクタ用も探すと見つけやすいと思います。 ウェストレベルファインダーとプリズムアイレベルファインダーは、愛玩用と実用で使い分けています。 ウェストレベルファインダーは、世の中が実際より綺麗に見えて、まことに結構なファインダーなのですが、真面目に写真を撮るとなると、なかなか使いづらいファインダーでもあります。 横位置撮りの時は、左右反転した像が写りますから、水平が取りにくかったりします。 縦位置撮りの時は、上下左右反転像が写りますから、思った方向にカメラを振れず、フレーミングするだけで疲労困憊します。 ウェストレベルファインダーで縦位置撮影をしている様子を端から見ていると、あたかもタコ踊りを踊っているかのように見えます。 というわけで、実用目的であれば、プリズムアイレベルファインダーの方が断然いいです。 特に私のように縦位置撮影が多い人は。 プリズムアイレベルファインダーを付けたエクサくんです。 ファインダーを変えても、おむすびころりんな印象は変わりません。 丸っこくて無類に愛嬌があるのですが、ホールドは悪いです。 カメラの両端が絞り込んであるデザインのため、しっかりと握れないのです。 おむすび系のカメラは、どれも姿形は可愛らしいのですが、両手でホールドしようとすると落としそうになります。いいんですけどね、それでも。 このカメラ、エキザクタと同じく、左手レリーズです。 巻き上げレバーだけは右に移動しましたが、シャッターボタンは伝統の左です。 上の写真、"EXA 1b"の"b"の斜め下にあるのがレリーズボタンです。 シャッターボタンは、左手の人差し指で押すことになります。 左上に見える巻き戻しレバーの近くに、いかにもレリーズボタンですよ、という雰囲気のボタンがありますが、これはリバースクラッチ解除ボタンです。 フィルムを巻き戻すときには、このボタンを押しながら巻き戻しクランクを回します。 イハゲー社のカメラには常識が通用しません。 フィルム巻き戻し軸にある、シャッター速度設定ダイヤルです。 B、1/30、1/60、1/125、1/175、遅い上に、たったの3段半しかありません。 せめて、1/250が切れれば、と思います。 それでも、日中屋外なら何とかなります。 晴れていたら、F11+1/125sec.、曇っていたら、F5.6+1/125sec.ってところですね。 これは、ISO100フィルムでの話です。 ISO400フィルムは使わない方がいいです。絞りきれませんから。 ところで、このシャッター、何とも間抜けな音がします。 「パコン!」、「ポコン!」、「カパッ!」、「コポッ!」‥‥、 余韻が少なく、金属的な響きがほとんどない、乾いた牧歌的な音です。 うるさいとか震動が多くてブレるとか書かれることが多いシャッターですが、私は静かだと思います。 高周波成分が少ないので、少し離れればシャッター音はほとんど聞こえないのではないでしょうか。 このシャッターを切ると何とものんびりした気分になれます。 このカメラでポートレートを撮ると、被写体の表情が和やかになるように思います。 最高速度の遅さ、間抜けな音、これらは、シャッターの構造に由来しているように思えます。 このカメラ、メタルセクター方式という一風変わったシャッターを使っています。 ミラーシャッターとも呼ばれるとおり、ミラーがシャッターを兼用しています。 ミラーの下に、円筒を1/4に割ったような金属の箱が付いており、ミラーと同軸で動くようになっています。 以下写真つきで説明します。 シャッターをまだチャージしていない状態のミラーボックスです。 ミラーは上の方に上がっています。 このカメラ、フィルムを巻き上げ、シャッターをチャージしないと、ファインダーを覗いても、何も見えません。 左のようにシャッター後幕でミラーボックスがふさがれていますから。 巻き上げレバーを動かし、巻き上げ始めると、ミラーが降りてきます。 さらに巻き上げます。ミラーが見えてきました。 巻き上げ完了です。 普通の一眼レフのような見慣れたミラーボックスの光景です。 この状態になれば、ファインダーから被写体を見ることができます。 レリーズボタンを押すと、パコン!という音と共にミラーアップします。 ミラーの下には四角い窓が開いており、ここから光が入り、フィルムを露光させます。 このシャッターでは、ミラーと一体となった扇箱状の部品がフォーカルプレーンシャッターでいう先幕の役目を果たしているわけです。 指定された時間が経過すると、下からシャッター後幕がせりあがってきます。 先幕と後幕でスリットを形成するというシークエンスがなく、必ず全開状態になるというシンプルなシャッターです。 発光タイミングさえ適切であれば、ストロボは全速シンクロするかもしれません。 高速シャッターがないのは、この独特の構造ゆえと思われます。 1/175sec.という中途半端なスピードが、この扇箱状部品の最大駆動速度なのでしょう。 露光完了です。 クイックリターンミラーではないので、ファインダーはブラックアウトしたままです。 ボロカスにけなしてきましたが、EXA 1bは良いカメラです。 わたくし的には、大いにツボにはまり、気に入っています。 こんな面白いカメラはありません。 スペック的には底辺カメラですが、ちゃんとしたレンズを使えば、現代の銀塩AFカメラと遜色ない写りをします。 太陽の下で、F2.8/F4などの絞りを使うのは無理ですが、F11/F16などに絞って使えば写真は写ります。 フィルム給装は、そこそこ滑らかで、ペンタコン・プラクチカより軽いぐらいです。 各部の動作も意外にしっかりしています。 精密感はありませんが、不安感もないですね。 一応、1980年代のカメラですから、普通に使えば普通に写ります。 実写例は下にあります。 Xylocopal's Photolog 2007/02/02 休館日 http://xylocopal2.exblog.jp/5426256/ Xylocopal's Photolog 2007/02/03 赤い壁がある公園にて http://xylocopal2.exblog.jp/5434320/ Xylocopal's Photolog 2007/02/05 製材所にて http://xylocopal2.exblog.jp/5450046/ Xylocopal's Photolog 2007/02/17 イタリア料理店にて http://xylocopal2.exblog.jp/5551163/ このカメラの操作感ですが、今まで使ったことがある東独製カメラの中では、"VEB Certo Super Dollina II"に似ています。 未確認情報ですが、EXA 1bの後期モデルはCertoの工場で作られたものがあるらしいです。 シリアルナンバーに"C"が付くものはツェルト製なのだとか。 カメラの形も、どことなくドリナ的であります。 イハゲー社とツェルト社は何か関係があったのでしょうか。 数あるEXAシリーズの中、M42マウントは、この"EXA 1b"と後継の"EXA 1c"の2つだけです。 EXA 1cは、EXAシリーズの最終モデルで、1989年、ベルリンの壁崩壊直前まで生産されていたようです。 一番新しいEXAが欲しければ、EXA 1cなんですが、プラスチックパーツが多用されており、それまでのExaとはかなり雰囲気が異なります。 マウントにこだわらなければ、山ほどあるエキザクタマウントEXAの中から好きなものを選べます。 実は私、甲冑タイプの初期型EXA、欲しいんです。 "EXA 0 Version 1 Type 1"、こんな奴ですね。 でも、これを買ってしまうと、エキザクタマウントのカメラやレンズがわらわらと増殖しそうで、怖くて買えません。 饅頭怖い、饅頭怖い。^^
by xylocopal2
| 2007-02-01 23:57
| Hardware
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