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2006年 12月 22日 52年前のカメラ雑誌




昨日のエントリ、Xylocopal's Photolog 2006/12/21 "戦前のアサヒカメラを発掘したよ"に続いて、古いカメラ雑誌の紹介です。
今日のお題は、1954年(昭和29年)発行のアルスカメラ、正式にはアルス社発行の"Camera"という写真雑誌です。
カメラという誌名が一般名詞と区別できないので、アルスカメラと呼ばれることが多いです。

表紙はスキーウェアに身を包んだ若い女性のカラー写真。
昨日紹介した、東条英機表紙のアサヒカメラから、わずか12年でこの変わりようです。
やはり、平和はいいですよ。
撮ったカメラマンは稲村隆正。
この時代の写真雑誌には、今やビッグネームになった写真家たちの若き日の作品がいたるところで見受けられます。

裏表紙は、フジフィルムのネオパンSSの広告になっています。
ネオパンSSというのは現在も製造されているISO100のモノクロフィルムです。
現在でこそ、ISO100フィルムは低感度フィルムですが、この時代は超高感度フィルムでした。
「冬の撮影には」というコピーや、「ネオパンSSロール」の上に書いてある「超高感度」という文字を見ると、普段気軽に使う常用フィルムではないことが窺い知れます。
おそらく、当時の常用フィルムは、ISO32~50程度だったのではないかと思います。
この時代のカメラに、ISO400のフィルムを詰めると、晴天時に絞りきれなくなるのも無理はありません。






表紙をめくった部分です。
広告料が高い場所ですから、その時代に勢いがあるカメラメーカーが載ることになります。
現在であれば、キヤノン、ニコン、ペンタックス、オリンパスなどが並ぶ位置です。
この号には、マミヤ、キヤノン、ミノルタ、オリエンタルフィルムが載っています。
キヤノンは精機光学からのCIが済んでいますが、「千代光の贈る二題」という文字を見ると、ミノルタは千代田光学のままだったようです。






目次裏部分、ここも広告料が高い場所です。
右側にトプコンの東京光学、左側にペトリの栗林写真機が載っています。
当時、この両者の人気が高く、業績がよかったことが分かります。

ところで、前の広告といい、二眼レフがやたらと目に付きます。
この号に掲載されているカメラ広告の半分以上が二眼レフではないかと思える多さです。
どうやら、1954年というのは、二眼レフブームがピークに達する直前ぐらいの時期にあたるようなのです。






新製品速報にあたるページです。
見事に二眼レフばかり。
二眼レフブームのピーク時には、A~Zまで、2~3の欠落を除き、ほとんどの頭文字の機種があったといわれています。
実際、それぐらい多くの二眼レフ広告が載っています。
この号に掲載されている二眼レフ広告をアルファベット順に並べてみました。
---------------------------------------
Airesflex アイレス写真機製作所
Amiflex 関東光学
Alpenflex 八陽光学

Beautyflex 太陽堂光機

Crystar クリスター光機
Cosmoflex アルファカメラ製作所

D

Elmoflex エルモ社

Firstflex 皆川商店

G

Hobiflex 東郷堂

Isocaflex 磯川光機/竹本商会

J

K

Laurelflex 東京光学/服部時計店

Mamiyaflex マミヤ光機
Minoltaflex 千代田光学/浅沼商会
Minoltacord 千代田光学/浅沼商会
Museflex 東郷堂

Nikkenflex 日本光研/日本橋写真商事

Olympusflex オリンパス/ワルツ商会

Primoflex 東京光学/大沢商会
Petriflex 栗林写真機械製作所
Princeflex 東洋精機光学/美馬商会

Queenflex スーパー写真用品

Ricohflex 理研光学工業

Silverflex 日本光機

T

U

Vesterflex タチバナ商会

Welmyflex 水野写真機店

X

Yashimaflex 八洲光学精機

Zenobiaflex 第一光学/服部時計店
---------------------------------------


全27種類、D、G、J、K、T、U、Xを除き、アルファベットが並びました。
ピーク時というのは、この2~3年後らしいのですが、雑誌広告を出せないメーカーまで含めると、さらに多くの機種が発売されたに違いありません。
外観はどれもこれも似たようなものですが、品質にはかなり差があったといいます。
二眼レフというものは、非常にシンプルな作りになっていますから、近代的大規模工場を必要としません。
これらの中にはアパートの四畳半で作られた二眼レフもあったと聞きます。






二眼レフブームの火付け役となったリコーフレックスです。
この広告はVII型、6800円です。
1954年当時、かけうどん一杯30円、ビール大瓶1本120円、タバコ(ピース)が45円だったそうです。
アルスカメラが160円。週刊朝日が30円。
ざっくりとしたところで、現在の1/5~1/6の物価でしょうか。
ということは、リコーフレックスVIIは、現在の35000円~40000円ほどの価値だったと思われます。
その他のカメラの価格も載っています。






これを見ると、リコーフレックスが爆発的に売れた理由が一発で分かります。
二眼レフブームの火付け役となった、1950年発売のRicohflex IIIはケース無しで5800円です。
1954年のRicohflex VIIでも6800円。
しかるに、上に並んだカメラの値段は2~3倍以上、ニコンやキヤノンのレンジファインダーに至っては10倍以上の価格です。
リコーフレックスが現在の物価で4万円とすれば、Canon IV Sb、Nikon Sは40万円を超えることになります。

キヤノンやニコンがこの価格ですから、海外製品はもっと高いです。
巻末の中古相場一覧から抜粋すると、

 ライカIIIF+ズマリットF1.5=14万円
 コンタックスIIIA+ゾナーF1.5=22万円
 ローライフレックスV+ビオメターF2.8=15万円

これ、あくまでも中古価格です。
コンタックスIIIAは現在でいえば、100万円を超えています。
一般庶民に買えるものではないですね。
そのせいか、新品の外国製カメラの広告はひとつもありません。






当時の花形カメラ寸評という記事から抜粋しました。
コニカの評価は、まだまだ高いですね。
小西六の、のれん人気というものが生き残っている時代でした。
ニコンのカメラは頑強で知られていたようです。
他社のカメラが「壊れにくい」なのに対して「壊れない」ですから。^^
残念ながら、ここに上げてある以上のメーカーについては言及がありませんでした。

それにしても、アルコ35が花形カメラとして並んでいるのには、少々驚きました。
アルコ35ってのは、こんな形をした蛇腹式フォールディングカメラです。
以前、蛇腹が付いていて折りたためる135判カメラを猿のように集めていた頃、欲しいなあと思ったものの、たいしたことはないだろうと買わずにいたカメラです。
当時、そんなに人気があったとは知りませんでした。






アルスカメラの執筆陣は豪華です。
編集長が桑原甲子雄、月例写真の選評者が木村伊兵衛と土門拳です。
写真史上に名を残す、こうした巨人たちに選評された当時のアマチュアは果報者ですね。
木村伊兵衛はアルスカメラとは関係が深かったらしく、月例写真選評の他、「私の35mm写真術」という連載もしています。

この号の巻頭写真は植田正治、新人作家傑作集には細江英公が載っています。
その他の写真もレベルは滅法高く、緊張感のある良い写真が多いです。
アルスカメラは廃刊になってしまいましたが、内容のしっかりしたいい雑誌だったのだなあと思います。
カメラ毎日といい、硬派の写真雑誌は読者に受け入れられない部分があるようです。






機材解説も充実しています。
充実というよりは異例に詳細です。
上は、レンズシャッターの動作原理。
本文は数式入りで、理工系大学の論文のようです。
現代のカメラ雑誌に、フォーカルプレーンシャッターの構造解説が載ることはまずないでしょう。






やたらと目立つのがヌードスタジオ、ヌード写真集の広告です。
フランスヌード傑作集、アメリカヌード傑作集、日本ヌード傑作集、絢爛華麗天然色写真5葉、別刷写真31葉などと広告に謳われています。
戦後の開放的な雰囲気と、未だ女性のヌード写真が一般的ではなかった時代の雰囲気と、両方を感じ取ることができます。
これが、戦後アプレゲールというやつなのでしょうか。






いくつか印象に残ったカメラがあるので紹介しておきます。
上は、八洲光学のYashimaflex。
後のヤシカフレックスです。
一面広告。「機構」、「スタイル」、「値段」、三拍子揃ったヤシマフレックス」と書かれています。
価格は、15000円。
6800円のリコーフレックスほどではありませんが、まぁまぁ買いやすい値段です。

レンズは、トリローザ80mm F3.5。
富岡光学の誇る名玉です。
この時代は富岡光学の名前を表に出していますね。
富岡光学のレンズは何本か持っていますが、名前が表に出ているものは、残念ながらありません。






現在、私が持っている唯一の二眼レフ、Meopta Flexaretが海外カメラニュースに載っていました。
年代的には、フレクサレットIVのはずですが、レンズがミラールだし、写真はどうみてもフレクサレットIIIです。
識別点は、テイクレンズ下のフォーカシングレバーの形状です。
Meopta Official Websiteを見れば分かります。
Flexaret IIIは1950年に製造中止になっています。
そのカメラがアメリカ市場に現れたのが1953~1954年。
この頃は時差が非常に大きかったのですね。
鉄のカーテンの堅固さも信じられないほどだったとは思いますが。

このフレクサレット、$99.88となっています。
$1=360円の固定相場の時代ですから、36000円です。
現代の物価になおすと、ざっと20万円。
フレクサレットの価値が20万円ですよ。
舶来でありさえすればありがたい、という時代がよく分かります。






万能35mm一眼レフを謳うこのカメラは、アサヒフレックス。
現代のペンタックスの直系御先祖様です。
パララックスのない一眼レフのメリットを示すため、月面望遠写真と、眼の接写写真を載せています。
たしかに、この手の写真は二眼レフやレンジファインダーでは撮れませんから、説得力があります。
中間リングを「接写中継輪」と記すあたりが時代を感じさせます。

というわけで、アルスカメラ篇はこれでおしまい。
次回は、1958年のラジオ技術の紹介をします。
「テレビオールチャンネル時代到来、12チャンネル化の準備は万全か?」なんて記事満載です。
これも面白いですよ。
by xylocopal2 | 2006-12-22 23:59 | Favorites
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