Xylocopal's Photolog 2006/09/12 木壁、Xylocopal's Photolog 2006/09/16 白鳥庭園にてでボロカスにけなしたプラクチカです。 旧東ドイツの名産品。 右が、VEB Pentacon Praktica MTL50、左がPraktica MTL5、いずれもM42ねじ込みマウントのカメラです。 MTL50に付いているレンズは、Pentacon auto 50mm F1.8。 Meyer-Optik Oreston 50mm F1.8のOEM、メイヤーにしては出色の出来といってよい名レンズです。 カメラ2つは、いかにも1960年代レトロといった形をしていますが、実は意外と新しく、1980年代の製品です。 特に、MTL50は新しく、1989年まで作られていました。 東ドイツという国は、ベルリンの壁崩壊のときまで、M42ねじ込みマウントのカメラを作っていたわけです。 当時、日本では各社ともバヨネットマウントの時代、そしてAFカメラの時代になっています。 同時期、東ドイツでは、バヨネットマウントのプラクチカBシリーズも平行生産されていますが、それにしても、1989年までスクリューマウントカメラを作ったというのは、少々物持ちが良すぎるような気もします。 上3点は、物欲の殿堂&伏魔殿、"eBay"にて、送料込42ポンドなり。日本円にして、9000円少々でした。 MF一眼レフ2台、レンズ1本で9000円なら安いですが、それはまともに動いた場合の話です。 つまり、まともに動かないこともあると‥‥。 ebayというのは、アメリカを本拠に置く国際ネットオークションですが、国内オークションに比べると、ギャンブルの要素がかなり高いのが特徴です。 稀少品が安く買えることもありますが、箸にも棒にもかからないトンデモ商品が届くこともあります。 けっこうオッズは高く、鉄板出品物は少ないです。 ギャンブルとして楽しむ覚悟なしにはやってられません。 競馬が好きだ、パチンコが好きだ、LOTOが好きだ、勝負事全般が好きだ、という人には向いています。 トンデモ商品が届いてしまう原因のひとつは国民性の違いにあると思います。 カメラ関係の場合、出品者の国籍は、アメリカ、イギリス、ドイツなど欧米各地なのですが、総じて大らかな人が多いです。 出品者がプロ、セミプロの場合は、比較的きちんとした人が多いのですが、一般人出品者の中には、細かいことにこだわらない、大きな気持ちの人がときどきいます。 その含有率は日本国内よりかなり多いです。 「ものすごい美品!ちゃんと動く!」と書かれていても、そうではないことがしばしばあります。 「美品」、「動く」、「撮れる」のレベルが、日本とは若干ずれているようです。 ピンホールだらけの蛇腹カメラ、ピントがどこにも合わないレンズ、巻き上げるとフィルムがちぎれるカメラ、過去にはこんなものが送られてきたことがあります。 いずれも、ちゃんと動くと説明されていました。 これに懲りて、ebayでは個人出品者からはなるべく買わないようにしていたのですが、珍品だったり、破格に安かったりすると、ついついポチッとやってしまいます。 学習能力がなく、ギャンブル好きということです。^^ もちろん、ちゃんとした商品が届く場合の方が多いですが、今回久しぶりに当たってしまいました。 上のカメラは2台とも、"perfectly working order"とは言いかねる状態です。 幸い、レンズはまともだったので、送り返すのも面倒だし、こうしてネタに使うことにしました。^^ カメラの底には、PENTACON MADE IN GERMAN DEMOCRATIC REPUBLIC"と英語で記されています。 GERMAN DEMOCRATIC REPUBLICとは、言うまでもなくドイツ民主共和国、東ドイツのことです。 西ドイツであれば、Made in Germanyとなるところです。 PENTACONというのが、製造会社に当たるVEB Pentacon、つまりペンタコン人民公社です。 左側のマークはペンタコンのシンボル、エルネマン塔です。 もともとは、ツァイス・イコンの前身のひとつ、ハインリッヒ・ エルネマン社の本社工場の塔だったのですが、現代ではドレスデンのペンタコン本社のシンボルとなっています。 ペンタコンのフルネームは、Kombinat VEB Pentacon Dresden。 コンビナートというと、いかにも重工業命!の国柄を思わせ、石油精製工場の片隅で組み立てられたカメラを連想しますが、そうではなく、「結合」を意味するロシア語から派生した言葉だそうです。 原料や製品を有機的に結び付けた工場の集合を指すのが、コンビナートという言葉なんですね。 VEBとは、Volks Eigene Bertrieb、人民公社のことです。 ソ連だったら、親方カマトンカチの国営企業です。 第二次世界大戦後の東ドイツでは、戦前からあった名門光学機器メーカーは国家に接収され、計画経済のもとに運営されるようになりました。 (オランダ資本のイハゲー社を除く) その結果、VEBカール・ツァイス、VEBツァイス・イコン、VEB KW、VEBメイヤー・オプティークなど数多くの人民公社が形成されました。 これらの人民公社は分離統合を繰り返しながら整理されていき、最終的にひとつにまとまったのが、ペンタコン人民公社です。 ペンタコンは、カール・ツァイスであり、ツァイス・イコンであり、KWであり、メイヤー・ゲルリッツであり、という幕の内弁当のようなメーカーといえます。 多くの幕の内弁当が一点突破に欠ける無難な味にまとまってしまうのと同様、ペンタコンの製品も往年ほどの個性を発揮するものはほとんどありませんでした。 人民公社組織の分離統合の過程で、名門光学機器メーカーの個性はどんどん薄れていきました。 薄れていったのは個性だけではありません。 ドイツ製品らしい精密感にあふれた機械としての品質も戦前より劣るものになっていきました。 社会主義体制下の計画経済的経営、硬直した官僚機構の悪影響などにより、光り輝く「ドイツの科学は世界一ィィィ!」のクォリティは徐々に失われていったのでした。 だって、考えてもごらんよ。 一生懸命汗水流して働いても、ハナクソほじくりながらチンタラ働いても、もらえる給料は同じとなったら、真面目に仕事をする人はあまりいないんじゃないかなぁ。 おおかたの人は手抜き仕事になるんじゃないかなぁ。 他の人ならともかく、私だったら間違いなく手を抜く。 ボーナスの代わりに労働英雄にしてやる、と言われてもねぇ。 勲章やメダルをたくさんもらっても、軍人じゃないからちっとも嬉しくない。 私が旧ソ連、旧東ドイツ製のカメラを買ってドツボにはまったのは、実はこれが初めてではありません。 ピントがどこにも合わないレンズ、巻き上げるのに怪力がいるカメラ、巻き上げるとフィルムがちぎれるカメラ、異様にコマ間隔がばらつくカメラ、これらはすべて旧COMECON諸国から到来したものです。 ですから、今回も特に驚きはせず、「あぁ、やっぱり駄目だったか」と静かに受け止めました。 たまたま故障したカメラが送られてきただけかもしれませんが、ある程度量がまとまると、おのずと全体像も分かるというものです。 やはり、旧ワルシャワ条約機構諸国のカメラはレンズ以外は総じてヤグイ。これは言えると思います。 Praktica MTL50です。 絞り込み測光のマニュアル露出MF一眼レフです。 プラクティカLシリーズの最終モデルとして、1985年~1989年にかけて22万台あまりが作られました。 大柄で角張ったスタイルは、「無骨」というものを具現化したような形です。 鍋頭のマイナスネジがそこらじゅうに出ているあたり、1980年代後半の日本のカメラでは考えられない仕上げです。 貼皮はビニールレザー。質感は悪く、簡単に剥がれてきます。 クロームメッキ梨地仕上げのトップカバーは、なかなか美しいです。 やはり、全金属製カメラは味わいがあって良いなあ、などとはくれぐれも思わないように。 このトップカバー、実はプラスチック製です。押すとベコベコします。 しかし、押さない限りは分からない見事な仕上げです。 プラスチックにこれほどまでのメッキ加工をするとは、やはり「ドイツの科学は世界一ィィィ!」であります。 このカメラ、由緒は非常に正しいです。 直系祖先は、1950年に発表された、VEB Zeiss Ikon Contax S。 世界初のペンタプリズム搭載一眼レフです。 ウェストレベルファインダー式一眼レフは戦前からあり、ペンタコンの前身、KW(Kamera-Werkstätten)でもPraktiflexなどの一眼レフを作っていましたが、ペンタプリズム搭載のカメラはコンタックスSが世界で初めてでした。 その後、VEBツァイスイコンはVEBペンタコンに統合され、コンタックスSの血脈はプラクチカシリーズに受け継がれました。 現在のデジタル一眼レフも、Contax Sやペンタコンの一眼レフの血統を脈々と受け継いでいます。 元祖、M42マウントです。 直径42mm、ネジピッチ1mmの原始的なネジ式マウントです。 30年ぐらい前は、プラクチカマウント、Pマウントなどと呼ばれることの方が普通でした。 もちろん、プラクチカシリーズから取られた名前です。 このマウントを最初に採用したのは、1949年発表の初代プラクチカです。 M42マウントは製造が簡単なわりに精度が出るため、初期の一眼レフで多く使われ、一時はレンズマウントのデファクトスタンダードになったほど普及しました。 本家ペンタコンをはじめ、世界各国で膨大な種類のM42マウントのカメラやレンズが作られたのです。 日本でも、ペンタックス、リコー、ヤシカ、マミヤ、チノン、富岡光学など数多くのメーカーがM42マウントの製品を作りました。 シャッターレリーズボタンの位置は少々変わっています。 レンズマウントの横に斜めに付いています。 この位置にレリーズボタンがあるカメラは意外に多いのですが、斜めに付くのはペンタコン系だけだと思います。 プラクチカのルーツ、コンタックスSもまったく同様の斜めレリーズボタンが付いています。 レリーズボタンの右上に見えるのが、絞り込み測光レバーです。 これを押すと、レンズマウント下部のバーが前進し、レンズのピンを押し、絞りを絞るようになっています。 同時に、露出計の電源を入れ、メーターを動かします。 プラクチカLシリーズの場合は、右手人差し指で、絞り込み測光レバーを押して露出を計り、そのまま指先を移動すればレリーズボタンを押すことができ、とても使いやすいです。 なお、開放測光のプラクチカ、Praktica PLC3などには、このレバーは付いていません。 このレバーは、ASAHI PENTAX SPのものと同等機能のものですが、SPのレバーとは異なり、ロックが付いていません。 指を離せば、絞りは開放に戻り、露出計もOFFになります。 私は、ロック無しのシンプルなものの方が使いやすいです。 ロック付のものは、たいていレバーが重く、よっこらしょとスイッチを入れる感覚になるため、あまり好きではないのです。 残念ながら、Voigtländer Bessaflex TMもロックありのタイプ、位置も感触もペンタックスSPとそっくりです。 シャッターは、縦走りメタルフォーカルプレーンです。 ペンタコンでは、1969年に発売されたLシリーズの初代モデル、Praktica Lの時代からメタルフォーカルプレーンシャッターを採用していました。 Pentaxがメタルフォーカルプレーンシャッターを採用したのは、1970年代中頃からですから、プラクチカはずいぶんと先進的だったわけです。 ただ、同時代のセイコーMFC、コパルスクエアなどに比べると、非常にゴツイ作りです。 シャッターダイヤフラムは見るからに分厚そうで、薄膜ではなく、薄板といった感じです。 バルブor低速シャッターにして、先幕と後幕の間に指を突っ込むと、切断されそうで怖いです。 ギロチンシャッターとは、こういうスタイルのものをいいます。(大嘘) 当然ながら、音は凄まじく、往年のゼンザブロニカに並ぶのではないかとさえ思います。 ゼンザブロニカのシャッターを切ると、その大音響のために、神社のハトが飛び立ち、植木職人が脚立から落ちたという伝説があります。 いくら、メカニカルシャッターの音が好きだという私でも、ちょっとこれは勘弁です。 もう少しジェントルなシャッター音でないと、空シャッターを切って遊ぶ気になれません。^^ フィルム巻取軸には、針金細工のような妙な仕掛けが取り付けられています。 ペンタコンローディングシステムというらしく、イージーローディングの一種なのですが、これほどイージーではないものには触れるのは初めてです。 スプロケット下部のプラスチック板の下にフィルムを通し、巻取軸下の暗緑色の指標に先端を合わせれば、自動的にフィルムが巻き取られる仕組みになっています。 何回か練習用フィルムを通してみましたが、非常に装填しにくいしろものでした。 フィルムを置く位置がずれていると、偏心したまま巻き取られてしまいます。 結局、何回も装填しなおすハメになります。 これだったら、何の変哲もない普通の巻き取り軸の方がはるかに簡単です。 ドイツ人というのは、とことん機械が好きで、こういう仕掛けを作りたがりますが、機構に凝りすぎるあまり、人間工学的にはイマイチなものができてしまうこともあるようです。 この芸術的なネガスリーブは、Praktica MTL5で撮ったものです。 コマ四隅の周辺減光のような黒い影はフードによるケラレです。 35mmレンズに50mm用フードを使うとこうなる、という見本です。 それにしても、何とも見事な光線カブリです。 初めて、これを見たときは、ヘナヘナと全身から力が抜けました。 戦前の蛇腹カメラならともかく、1980年代の一眼レフで光線カブリなんてあまり聞かない話ですから、まともに写っているのが当然だと思っていました。 俺の時間を返せ!という気分になるのはこういうときです。 このカメラ、外見は一見何も問題がなさそうに見えました。 ヒビ割れや穴はありません。 モルトプレーン(遮光用スポンジ類)か?とも思いましたが、そもそもドイツのカメラでモルトを使っているものはあまりなく、このカメラも裏蓋まわりにはモルトを使っていません。 巻上軸付近にモルトが貼られた形跡がありますが、このあたりが怪しいのかもしれません。 しかし、追求する気合いがありません。 このカメラは、生まれ故郷を遠く離れた極東の地で、その生涯を終わらせてやることにします。 Praktica MTL50の方は、Xylocopal's Photolog 2006/09/16 白鳥庭園にてに上げた写真を見れば分かるとおり、実写OKです。 OKですが、まぁ、壊れかけているといってもいい状態です。 リンク先に書いたとおり、苦労を厭わなければ撮れないこともない、というカメラですから、わざわざ苦労して写真を撮りたいという変わった趣味の方には向いています。わたしゃ、嫌ですが。^^ これらジャンクなプラクチカに触れてみると、何故ベルリンの壁が崩壊したのか、実感をもって分かります。 これのカメラが作られたホーネッカー書記長時代の東ドイツは、社会主義計画経済がにっちもさっちも機能しなくなった時代です。 工業製品の品質は激落し、新製品開発もなかなか進まず、旧態依然とした工業製品がまかりとおる時代でした。 トラバントなどという、2ストローク600ccエンジンの小型車が庶民にとっては高嶺の花で、入手するためには何年もかかる体制が人間的であるはずがありません。 おそらく、1960~1970年代の冷戦時代は、もっと品質が良く、新製品開発の意欲も高かったかったのだろうと思います。 特に1960年代は、盟主ソ連が宇宙開発競争で米国を出し抜き、国威発揚の意識が強くあったでしょうから、カメラ工場労働者にしても、もっと真面目に作っていたはずです。 Mike's Praktica Collectionに1965年のプラクチカ製造ラインの写真があります。 優良労働者かつ写真写りがいい女性を集めたのだろうとは思いますが、さすがに表情はキリッとしています。 大体において、旧ソ連、旧東欧諸国のカメラは古いものほど品質が良い、ということになっています。 古いものの方が品質が良いというのは日本でもときどき聞く話ですが、どうやらレベルが違うようです。 現代史を学ぶ学生さんは、ぜひプラクチカを一台入手されるといいです。 社会主義体制崩壊の理由を知ることができます。^^ 学生さんでなくても、欲しいという酔狂な方がおいででしたら、タダであげますよ。 送料だけ持ってください。 レンズは使いますから、お持ちでなければ、どこぞで拾ってきてください。 たいていの中古カメラ店の片隅に、5000円以下で買える優良M42レンズがあるはずです。 SMC Takumar 55mm F1.8だったら、3000円台も普通にあります。 物好きな方であれば、ebayという手もあります。 気長に待っていると、私がまたジャンクなM42レンズを拾ってくるかもしれません。 MTL50の方は、露出計が生きています。 私の体感露出と同じぐらいの値を出しますから、まぁまぁそこそこ使えます。 18%グレーと同じぐらいの明るさの被写体を選んで測光すれば、外れることは少ないと思います。 おおかたのプラクチカはバッテリーが特殊ですが、MTL50は日本で普通に売られている、4LR44や4SR44などのバッテリーが使えます。 MTL5の方も露出計は生きていますが、あの光線漏れですから、真面目に撮らない方がよろしいかと。 これに懲りて、プラクチカにはしばらく手を出したくないのですが、まともに動くプラクチカに触ってみたい気持ちもあります。 特に電気接点を持つ開放測光のプラクチカ。 レンズも、electricタイプのものを触ってみたいです。 PRAKTICAロゴ入りデジカメなんてのも面白そうです。 そんなわけで、ebayを眺めては、次はどれにすっかな~などとやってます。 まったく懲りていないというか、学習能力に欠けているんです。 馬鹿は死ななきゃ治らない、といいますが、私の場合、死んでも治りそうもありません。^^ ---------------- 追記 2006/10/05 まともに動く、電気接点付プラクチカ、PLC3をゲットしました。 レポートは下記にあります。 Xylocopal's Photolog 2006/10/05 縞々ゼブラなパンコラー http://xylocopal2.exblog.jp/4672457/ ---------------- 追記 2007/01/23 プラクチカMTL5ですが、モルトを張り直してみたところ、光線漏れは治りました。 一応実用カメラになりました。 撮った写真は下にあります。 Xylocopal's Photolog 2007/01/23 冬枯れの森にて http://xylocopal2.exblog.jp/5351992/
by xylocopal2
| 2006-09-17 16:36
| Hardware
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