8年ぶりに海に行ってきました。 病気が悪くなってから、あれほど好きだったフネにまったく乗りたいと思わなくなり、最後に海に出かけたのは2000年6月のこと。今回は8年ぶりの海行きとなります。 向かった先は、愛知県武豊町富貴港。 火力発電所やガラス工場に囲まれた、ひたぶるに素寒貧とした小さな港です。 富貴は名古屋からだと意外に近い港です。 自動車なら知多半島道路経由で、名古屋都心部から30~40分。 電車なら、名古屋・金山駅から、名鉄河和線に乗ること30分。特急停車駅である富貴駅から富貴港まで徒歩6~7分。 いずれにしても、家を出てから1時間ほどでここまで来ることができます。 しかし、このわずかな距離が遠かったのでした。 ハーバーに行ってみると、馴染みのフネが何杯も上架されていました。 平日にもかかわらず、一人でやって来て船底塗料をぬっているおっちゃんもいました。 おっちゃんが私を見つけて言いました。 「久しぶり。いい天気だね」 ここは、8年前と何も変わっていません。 富貴港の北端に位置する"富貴ヨットハーバー/Fuki Club"。 ここが私たちのフネ、"Maiden Voyage II"の母港です。 富貴ヨットハーバーは「自主管理ハーバー」です。 愛知県より水面利用許可を得て、「富貴ヨットハーバー管理協議会」会員自身による自主運営/管理を行っています。 民間マリーナ、自治体マリーナ、第三セクターマリーナなどと根本的に異なるのは、自分の船の整備管理は当然ながら、係留施設の整備、ハーバー清掃など全て会員自身の手で行われている点です。 海事工事ができるもの、大工工事ができるもの、重機の運転ができるもの、配線工事ができるもの、経理が得意なもの、法務が得意なもの、PCいじりが得意なもの、それぞれができることを持ち寄って、いわば「手弁当」で20年ほど前に作り上げたハーバーが、富貴ヨットハーバーなのです。 自主管理ハーバーのモットーは、 "Do it yourself, at your own risk." 会員自らが動かなければ、クラブは何もしてくれません。 そのため、台風来襲時などは会員全員に非常呼集がかかり、オールハンズonポンツーンで増もやい/ロープ張りなどを行います。 「会費さえ払えば船の管理はハーバー任せ」ということにはならないのです。 その代わり、会費はおそろしく安価です。 首都圏あたりのヨット乗りが聞いたら、激怒しそうな年間10万円。 これ、1feetあたりの会費じゃないですよ。 32feetのセーリングクルーザーを、電気/水道完備の櫛形ポンツーンに海上係留した場合の年会費です。 湘南~三浦半島あたりのセレブなヨットハーバーだと、年間係留料1feetあたり3~5万円と聞きます。32feetのクルーザーだと、96万円~160万円ぐらいでしょうか。 しかも海上係留ではなく、地上保管の方が多いです。 乗るためには毎度毎度上下架を行う必要があり、そのための費用も発生します。 三浦半島で海上係留しようと思ったら、年間係留料は200万円を超えるのではないでしょうか。 こんな素晴らしいハーバーにもかかわらず、行けなくなったのは病気のためです。"双極性障害(躁うつ病)"の人に対して、「会うたびに態度が違う、信用ならん奴だ」と決めつけないであげてください。これ、そういう病気なんです。^^ 躁状態のときは陽気で人当たりもよく、仕事もばりばりこなし、よほど仕事が好きな人なんだな、と思われる人が、うつ状態になると一転して何も出来なくなる、眉間に縦皺を寄せて唸っている、そういう病気です。 何もできなくなる度合いがひどくなると、3泊4日で眠り続けるのは当たり前、やがて布団から出てこなくなります。 私は最高で、96時間+72時間眠りっぱなし、という経験があります。 1週間ですよ、睡眠時間が。 このハーバーには深くコミットしていたため、うつ状態のときには非常に大きな迷惑をかけてしまいました。 そのため、病気が寛解に向かっても、なかなか足を向けられない、ということがありました。 ところが現在は、数年に一度という大躁状態ですから、恐いものなど何もありません。 「あ~、また敵を増やすな~」と思っても、表現に抑制がかからないぐらいですから、ハーバーに行くぐらいは屁のカッパです。 迷惑をかけた相手に、「やっ、あのときは悪かったね、んで元気?」ぐらいのことは言いそうです。 かくして、ますます誤解が誤解を生み、社会的不適応となっていくわけですね。 何の話だったっけ? あ、フネですね、フネ。 "Maiden Voyage II"は沈みもせず、静かに待っていてくれました。 このフネは、1991年に仲間たち8人で買った32feetのセーリングクルーザーです。 新艇で買ったにもかかわらず、17年が経った今はボロボロの老朽船。私が地下に潜っている間にますます老朽度が増したようで、近くで見ると、古びたFRP製風呂桶にしか見えません。 フネに着いて最初にやることは、エンジンをかけることです。「果たしてエンジンはかかるか?」、これが気になって気になってしかたがなかったのです。 幸い、仲間たちが定期的に暖機運転してくれていたようで、セル一発でエンジンは起動しました。ヤンマー製ディーゼルエンジン、Yammar 2GM 20、2気筒18馬力、信頼性が高い良いエンジンです。 帆走主体のヨットにエンジンが要るのか?と思われる方、おいでかもしれません。ディンギークラスの小さなヨットでは不要ですし、セーリングクルーザーでも沖に出てしまえば、帆走オンリーでOKです。風さえ吹けば。 しかし、入出港の際には微妙な操船を要求されるため、セーリングクルーザーといえど小馬力のエンジンは必需品です。エンジン故障などの際、セールだけを使って軽やかに接岸離岸する者は最高の練達として賞賛されます。そのとき、10m/sec.程度の風が有れば、見物人が集まること請け合いです。 エンジンが始動したら、まず見るのは冷却水排水口です。ここから勢いよく海水が出てこないときは、冷却系にフジツボが詰まっています。 幸い、フジツボの詰まり方は軽微らしく、まずまずの勢いで海水が吐出されていました。まずは一安心です。 スロットルを2300回転ぐらいまで上げてみます。煙も出さず、エンジンは快調に回っています。まずまずのコンディションです。 ためしに舫綱をかけたまま、後進微速にクラッチを入れてみました。 推力らしきものが感じられないので、1500回転まで上げてみました。何か巨大なエネルギーが船底で唸りを上げていることは感じられます。しかし、推力としてはほとんど何も感じられません。 ははあ、やっちまってるな?と思い、クラッチを前進に入れてみました。こちらの場合も全く同じ。船底にうごめく巨大なエネルギーを感じることはできるものの、推力はわずかです。 これはアレに違いありません。 そう、"フジツボダルマプロペラ現象"。 放置期間が長い船舶で起こる怪奇現象です。 推力を発生させる装置であったプロペラが、フジツボに覆われて元のカーブを失い、回転させても、いたずらに周囲の水をかき回すだけ、というおぞましい現象です。 この現象、クラッチをつなぎ、前進/後進を頻繁に繰り返すことで、ある程度は解消できるため、心を込めてガッチャンガッチャンやってきました。ある程度回転数を上げないと意味がないので、1800回転ぐらいで。排気口から黒煙がもくもく出てきました。^^ エンジンは2時間ぐらい回すことにして、各部の点検です。まず、ハッチを全開にして風を通します。 PLブルーに白いハル。 絵に描いたようなカリブ海の、もとい三河湾の写真です。 キャビンから見たハッチです。 私はヒーコラ言いながら帆走するより、母港に係留してのったらくったらやってる方が好きなので、このフネの一番愛すべきアングルはこれになります。 そうしたノタラクタラ派のセイラーは欧米にも多いようで、これが進化するとキャナルボートだのナローボートだのハウスボートに行き着くらしいです。 とはいえ、いざとなったら帆走できるんだぞ、というアイデンティティは捨てたくないので、もう10年ぐらいはこのフネで遊びたいと思っています。 バウ、つまり船首部分です。 予想どおり、喫水部分が大変なことになっています。 フジツボの皆さんです。 ひょっとしたら、生牡蛎、ムール貝の皆さんもいるかもしれません。PLフィルターって便利ですね~。 ヨットというものは競泳用スーツと同じで、愚直なまでに船底状態が艇速に影響を与えますから、これは由々しきことです。艇速が遅くてつまらんというだけでなく、離岸接岸時にアンコントローラブルになりますから危険ですらあります。乗るつもりなら、何とかしないとな~。 マリントイレです。 おそるおそる便器の蓋を開けると、すえたような妙な香りが漂っており、下の方に薄黄色を帯びたNaClの結晶がぎっしり詰まっていました。オリジンが海水なのかそうでないのかは不明です。 とりあえず、「エンガチョエンガチョ鍵切った」と呪文を唱えながら全バラして、小だけは使えるようにしてきました。大は難しいだろうな、ちょっとばかし。排水口にフジツボの皆さん勢揃いのようですから。 自主管理ハーバーでヨットを持つということは、こういうことである、トイレの分解掃除まで自前でやらないといけない、ということは御理解いただけたかと思います。^^ でも、それほど辛い作業でもないですよ、ヨットの便所掃除。 オーストラリアの某名門ハーバーでは、明らかに勤務中と思われる背広姿のおっちゃんが嬉々としてトイレ分解をしているのを見たことがあります。「いや~、トイレが調子悪くてね~、仕事なんかやってられないんすよ」という表情がありありと見受けられました。 ジブファーラー、前側のセールを巻き取る装置です。錆びないはずのステンレスが錆びるのが海です。これも何とかしないとな~。 整備は後日やることにして、休憩タイムです。 これが楽しくてフネに乗っています。^^ 手前のルアーは出しただけで、今日は使わずじまい。 潮加減がよければ、今は"セイゴ"の大漁が期待できるのですが。 セイゴってのは、スズキの若魚だから、美味いんです。 でも、一人で宴会、というのも寂しいので帰ることにしました。 来週、6/1(日)には"上架/船底掃除"の予定です。 見てみたいという酔狂な方、興味のある方は富貴までどうぞ。 無料で、Maiden Voyage IIの船底をこすらせてさしあげます。 翌日、何も持てなくなることは保証します。 紫外線焼けで真っ赤っかになることも。^^ 愛知県知多郡武豊町富貴港にて Canon EOS 30D Canon EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM Tamron SP AF28-75mm F2.8 XR Di
by xylocopal2
| 2008-05-27 23:54
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