まぶしそうに外を眺めるノリマキさん。 太陽の光がさんさんと降り注ぐ窓際での撮影です。 生体露出計である猫の眼が針のように細くなっています。 強い外光が入る場所での室内写真は、ともすればシャドウが真っ黒に潰れ、ハイコントラストな写真になりがちです。 そうしたときに、ストロボ光を補助光としてシャドウを起こすことにより、より柔らかな、見た目に近い自然なライティングにすることができます。 こうした明るい場所での補助光としてのストロボライティングをデイライトシンクロといいます。 直接光の場合もバウンス光の場合もあります。 デイライトシンクロの場合、地明かり(アベイラブルライト/環境光)が明るすぎるため、オート調光よりマニュアル発光の方が確実です。 オート発光させると、シャドウが起きていなくても露出OKとカメラが判断してしまい、補助光効果がうまくでないときがあるのです。 デイライトシンクロにより、どの程度シャドウを起こすことができるのか、ストロボをマニュアル発光させて調べてみました。 使用したストロボは、いつもの"SUNPAK PZ42X"。 天井バウンスで使用しています。 補助光なしの写真。 背景の日陰部分やシャドウが黒く潰れており、もう少しコントラストを柔らかくしたいところです。 ストロボバウンス補助光ありの写真。 ストロボ出力は、1/1。 つまりフル発光です。 シャドウは明るくなっていますが、少々効き過ぎの感があります。 ストロボ出力1/2。 これぐらいのシャドウが雰囲気としては好みです。 ストロボ出力1/4発光。 補助光なしとあまり変わりません。 デイライトシンクロ時の露出は、AEであれマニュアルであれ原則アベイラブルライト、つまりストロボなしの環境光の明るさに合わせます。 露出が変わるほどストロボを当てると、いかにも当てました、といった感じのライティングとなり、あまり品がよろしくありません。 したがって、晴天の日向ISO100であれば、原則LV14の組合せで撮れば良いことになります。 ISO100、LV14とは下記のような組合せによる露出です。 F16 + 1/60sec. F11 + 1/125sec. F8 + 1/250sec. F5.6 + 1/500sec. F4 + 1/1000sec. F2.8 + 1/2000sec. F2 + 1/4000sec. F1.4 + 1/8000sec. ここで悩ましい問題が発生します。 デイライトシンクロの場合、ストロボの種類によっては撮影できない組合せができてしまうのです。 露出を規制するのは、カメラの最高ストロボ同調速度です。 最高ストロボ同調速度とは、最高シンクロ速度とも、X接点シャッタースピードなどとも呼ばれる、ストロボ同調可能な一番速いシャッタースピードのことをさします。 古い一眼レフの場合で1/60sec.~1/125sec.あたり、現代のデジタル一眼レフの場合は1/180sec.~1/500sec.あたりです。 私が使っているデジタル一眼レフ、Canon EOS30Dの場合、最高ストロボ同調速度は1/250sec.です。 これより速いシャッタースピード、1/500sec.などではストロボが同調しません。 そのため、ストロボを装着すると、1/250sec.以上のシャッタースピードが選択不可となります。 仮にスタート時点でシンクロしたとしても、半分真っ暗の写真になったり、縞模様が写った写真になったりします。 したがって、さんさんと光が差し込む窓辺、つまりLV14の明るさでは、F8以下に絞りを開くことができません。 F5.6、F4、F2.8、F2などと絞りを開いてボケを活かした写真を撮ろうとしても、最高シンクロ速度に縛られ撮れないことになります。 これは、フォーカルプレーンシャッターを使ったカメラでは、構造上どうしても避けられない問題です。 フォーカルプレーンシャッターとは、焦点面に近接した場所で開閉するシャッターのことをいいます。 フィルムやCCD/CMOSなど撮像面の直前に位置し、シャッター幕が遮光幕を兼用できるため、レンズを外しても感光することがありません。 レンズ交換式カメラでは便利な方式です。 そのため、レンズ交換可能な一眼レフやレンジファインダーカメラでは、フォーカルプレーンシャッターが使われることが多くなっています。 銀塩カメラ時代は、裏蓋を開ければ直接フォーカルプレーンシャッターを観察することができたため、フォーカルプレーンシャッターの動作を理解することは比較的簡単でした。 しかし、デジタル一眼レフの場合、ホコリ混入の問題などからシャッター幕の動作を目視することは事実上難しく、フォーカルプレーンシャッターの仕組みを知らないまま使っているユーザが増えてきました。 フォーカルプレーンシャッターの動作原理など知らなくても、写真を撮る上では何も不都合はありません。 高速移動する列車などを低速シャッターで撮った場合に、被写体の形が歪んで写ることがありますが、そうした時に故障ではないことが分かる程度でしょうか。 しかし、ストロボを活用し始めると、フォーカルプレーンシャッターの原理を知っていた方が何かと便利になります。 現在主流の縦走りメタルフォーカルプレーンシャッターです。デジタル一眼レフなどで使われているのはこれです。金属薄膜で作られた鎧戸のようなシャッター幕が上下に走行し、1/125sec.などの短時間だけ光を通すようになっています。 かつては主流であった横走り布幕フォーカルプレーンシャッターです。ゴム引き布製シャッター幕が左右に走行し、瞬間的に光を通すようになっています。 動作原理は、縦走りメタルフォーカルプレーンシャッターでも横走り布幕フォーカルプレーンシャッターでもほとんど変わりません。ただ、シャッター幕の速度を上げるため構造的に有利という理由から、現在は縦走りメタルフォーカルプレーンシャッターが主流となっています。フォーカルプレーンシャッターの歴史は幕速UPの歴史といえます。 以下、フォーカルプレーンシャッターの動作原理を見ていくことにします。下図は横走りフォーカルプレーンシャッターの模式図ですが、90度回転させれば、縦走りフォーカルプレーンシャッターも同じになります。 フィルムを巻き上げると、つまりシャッターチャージを行うと、先幕がフィルムゲートを覆い、フィルムやイメージセンサーを遮光する形になってスタンバイします。先幕とは先に走行開始するシャッター幕のことです。フォーカルプレーンシャッターは先幕/後幕の2枚のシャッター幕でできています。 シャッターレリーズボタンを押すと、まず先幕が走行を開始します。 先幕が走行完了し、フィルムゲートが全開になった後に後幕が走行を開始します。 やがて後幕が走行を完了し、フィルムゲートを遮光して一連のシャッター動作を終了します。フォーカルプレーンシャッターの1/30sec.、1/60sec.といったあたりの比較的遅い速度はこの動作により、露光を行います。 しかし、1/1000sec.、1/2000sec.などといった高速シャッターでは、この一連の動作が完了できなくなります。フィルムゲートを全開にする時間的余裕がなくなるわけですね。そこで、フォーカルプレーンシャッターの高速動作は上記とは異なった方法で行うことになります。 フォーカルプレーンシャッターの高速動作は、先幕が走行完了する前に後幕がスタートし、スリットを作りながら走行するという方法で実現させています。 シャッター速度が高速になればなるほど、スリットの幅を狭くしていきます。左図の上が1/1000sec.だとすると、下は1/2000sec.という具合です。この動作ではシャッターが全開することはありません。 こうしたフォーカルプレーンシャッターの動作の仕組が何故ストロボ使用を制限するのかについて、以下に説明します。 ストロボ光は、先幕が走行完了し、シャッターが全開になった時点で発光します。そして、後幕がスタートする前に発光を完了します。 下図は通常発光(先幕発光)の場合の模式図です。 後幕発光というモードもありますが、話がややこしくなるだけなので今回は省略します。 ストロボ発光時間は1/500sec.~1/30000sec.といった非常に短い時間ですが、必ずシャッターが全開になっている必要があります。 シャッターを全開にできる最も速いシャッタースピードのことを最高同調速度、X接点速度と呼ぶのです。 シャッターがスリットになっている状態では、スリットの部分だけしか光が当たらず、露光部分が縞模様を描いたり半分しか写らなかったりします。 ストロボが発光を終えたのに、スリットが走行を続けている状況を考えてみてください。 ストロボ発光中の部分は光が当たりますが、ストロボが発光を終えてからの部分には光が当たりません。 そのため、均一な露光とならず縞模様が写ったり部分的に真っ暗になったりしてしまうのです。 これを避けるために、FP発光、ハイスピードシンクロなどと呼ばれる高速シャッターモードを備えているストロボがあります。 FP発光とは、定常光と同じように、シャッターが開いている間中、つまりスリットが移動している間中ストロボを光らせておく発光方式です。 定常光とは、いわゆる普通の光、ストロボ光のような瞬間的な光ではない、光りっぱなしの光のことをいいます。 FP発光では、シャッターが開き始めてから開き終わるまで均一な光量でストロボを発光させるため、スリットによる不均一な露光が避けられます。 パルス光しか出ないはずのストロボを光りっぱなしにできるのか?という点ですが、非常に速い周期で明滅を繰り返すことで擬似的定常光を実現させています。 その周期は50khz程度、1秒間に5万回の明滅を繰り返すわけです。 FP発光の名前の由来は、フォーカルプレーン発光から来ています。 昔よく使われた閃光電球の中にも長時間発光タイプのFP級というものがありました。 FP級の発光時間は1/30sec.程度と言われています。 FP発光は高速シャッターが切れるという点で便利なのですが、欠点もあります。 狭いスリットからの露光になるため、効率が落ち、GN(ガイドナンバー=ストロボ出力)が実質目減りしてしまうのです。 1/4000sec.などのシャッタースピードの場合、スリットの幅は爪楊枝の先ほどしかないといいます。 直接光でもGNが下がり効果が少なくなることがあるほどですから、パワーロスの大きいバウンス発光では、FP発光は通常発光に比べ光量的には不利になります。 FP発光といえど、万能ではないのです。 FP発光可能なストロボはなかなか高価です。 私が使っている"SUNPAK PZ42X"はコストパフォーマンス抜群のクリップオンストロボですが、悲しいことにFP発光はできません。 こうした安価なストロボでは、太陽光が降り注ぐ窓辺で、絞りを開いたデイライトシンクロは不可能なのか?ということですが、まったく不可能なわけでもありません。 NDフィルターを使う方法があります。 NDフィルターというのは、色に影響を与えないニュートラルグレーの減光用フィルターです。カメラ用サングラスと考えればOKです。NDフィルターには、ニュートラルグレーの濃度により、いくつかの種類のものがあります。 ND2: 1段減光用 ND4: 2段減光用 ND8: 3段減光用 左の写真は2段減光用のND4フィルターです。これで減光することにより、本来はF4+1/1000sec.の明るさの場所でも、F4+1/250sec.にシャッター速度を下げることができます。ND8フィルターを使えば、F2.8+1/250sec.でもいけます。1/250sec.でシャッターが切れるということは、デイライトシンクロ可能ということですね。 上のギターを弾く猫の人形はNDフィルター法で撮ったものです。 撮影パラメータは、すべて下記のとおり同一です。 Canon EOS 30D Tamron SP AF28-75mm F2.8 XR Di + ND4 Filter SUNPAK PZ42X ISO100、F4.5、1/250sec.、WB:5200K FP発光ストロボを使わず、NDフィルターを利用することでデイライトシンクロ時に絞りを開けるという方法は、いかにも泥臭いです。 泥臭いですが、実用性は充分あります。 FP発光可能ストロボが高くて買えないという方にはお勧めの方法です。 直径67mmのND4フィルターなら2000~3000円で買えますから、メーカー純正の高価なストロボを買うよりはるかに安上がりです。 以下はオマケ。 ノリマキさんのデイライトシンクロ写真です。 猫好きの方、お楽しみください。^^ Canon EOS 30D Tamron SP AF28-75mm F2.8 XR Di with ND4 Filter SUNPAK PZ42X
by xylocopal2
| 2008-05-02 18:54
| Hardware
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