Copyright © 2004-2010 Xylocopal All Rights Reserved
Top
2008年 02月 20日 キヤノン製一眼レフ初号機 Canonflex


1959年に発売されたキヤノン製一眼レフ、"Canonflex"です。
ある方から譲り受け、現在私の手元にあります。
残念ながら、シャッターとミラーのリンケージが悪く、現状では写真が撮れるコンディションにありません。

このキャノンフレックス、キヤノン製一眼レフとしては最初の製品になります。
それまで、"Canon VI L"などレンジファインダーカメラを主力製品としていたキヤノンにとって初めての一眼レフであり、EOSシリーズをはじめ、すべてのキヤノン製一眼レフの御先祖様といえるカメラです。
それにもかかわらず、どうにもこうにも影の薄いカメラです。
報道用カメラとして一世を風靡した"Nikon F"と同期のカメラながら、まったくパッとしません。

Nikon FとCanonflex。
同じ1959年発売の一眼レフでありながら、どうしてこれほど扱いが違うのか。
Nikon Fが栄光の歴史を背負う一方で、Canonflexは歴史の闇の中に埋没しようとしています。
Nikon Fが1970年代まで製造が続けられ、通算生産台数86万台を数えたのに対し、Canonflexは発売後3ヶ月で製造中止となり、17000台が作られたにすぎません。

調べてみると、Canonflexは機構的に弱いカメラだったようです。
信頼性が重視される報道用カメラでは「頑丈であること」が最優先されるスペックでした。
いついかなる場所でも確実にシャッターが下りる、それがプロ用カメラです。
Nikon Fはその堅牢さゆえに成功し、Canonflexはそれだけの機械的頑丈さがなかったということでしょうね。

発売当時の新聞社写真部の評判を見ると、「Canonflexは弱い」「故障しやすい」という記述が目立ちます。
特にミラーが上がりっぱなしになり、降りてこないという故障は持病のようなもので、当初から頻発したようです。
私の手元にあるCanonflexもミラーが上がったままになることが非常に多いです。
レンジファインダーカメラでは充分経験を積んだキヤノンとはいえ、クイックリターンミラーなど一眼レフ独自の機構には泣かされたのだろうと思います。

今でこそ、一眼レフのキヤノンということになっていますが、当時キヤノンは一眼レフメーカーとしては後発もいいところでした。
Canonflexが発売された1959年5月、市場には、"TOPCON R""Miranda T""Asahi Pentax K"など8機種の一眼レフが先行販売されていました。
発売後3ヶ月で製造中止の憂き目にあったのは、後発ゆえの性急な開発があったのかなあと思います。
結局、Canonflexはプロ用分野ではNikon Fに水を空けられ、アマチュア用途ではPentaxに負け、さっぱり売れなかったようです。
「幻のカメラ」というほどではないにせよ、現在ではほとんど見かけないカメラとなってしまいました。

Canonflex 仕様一覧
 ------------------------------------------------
  フォーマット: 135判 24×36mm
  マウント: Canon Rマウント (外3爪バヨネット式/スピゴット式)
  シャッター: 布幕横走りフォーカルプレーン
  シャッタースピード: T/B, 1-1/1000sec.
  ファインダー: 着脱式ペンタプリズムアイレベル(スプリットプリズム)
  ファインダー倍率: 0.9×
  ファインダー視野率: 92%×94%
  露出計: 専用外付セレン光電池式
  測光レンジ: Low (EV4 - EV13)、High(EV10 - EV19) at ISO100
  シンクロ速度: FP、X(1/55sec.)
  外形寸法: 145×100×49mm
  重量: 750g
  発売年月: 1959年5月
  発売時価格: 59500円(R50mm/F1.8付)
 ------------------------------------------------

悲運の初号機、Canonflexですが、デザインは渋く重厚で、なかなか美しいと思います。
分厚い黒羊羹風塗装に覆われたペンタプリズム、そこに刻まれたブロック体の"CANON"ロゴ、現代から見てもグッドデザインです。
各部の工作精度、仕上げ精度も素晴らしいです。
戦後、わずか14年でこうした製品を送り出した日本の工業力はたいしたものだったのだな、と実感させられます。
工業技術の高さ以上に感じられるのは、熟練の職人技です。
非常に丁寧な仕上げで、Leica M3にも負けない作りの良さです。
これで、ちゃんと動けば言うことなしなのですが、悲しいかな、今のところ文鎮以外の用途を思いつきません。
写真を写せないカメラは悲しいです。




Canonflexの標準レンズ、SUPER-CANOMATIC R 50mm F1.8です。
SUPER-CANOMATICというのは、自動絞り機構のことで、これもレンジファインダーカメラにはなかった一眼レフ独自の機構です。
当時の販促用リーフレットを見ると、「高速動作の完全自動絞り」と誇らしげに記されています。
自動絞りはM42やエキザクタマウントのようにレリーズを押す力ではなく、レンズに内蔵されたバネの力によって瞬時に指定絞り値に絞られるようになっています。
このバネは、フィルム巻き上げ時にチャージされるようになっており、レンズマウントにはその伝達機構が装備されています。
絞り環は被写界深度確認用のためかダブルになっており、プリセット絞りとしても使えるようになっています。

光学系は、名レンズの誉れ高い"Serenar 50mm F1.8"を一眼レフのフランジバックに合わせて再設計したものといわれています。
セレナー50mm/F1.8は、ハロの少なさでズミクロン50mm/F2を凌駕し、圧倒的にヌケの良い描写で写真界を唸らせた名レンズです。
コンピュータなどない時代のことですから、何十人もの計算係がタイガー計算機をガラガラチーンと回し、営々と何ヶ月もかかって設計したのだと思います。

このレンズ、ボディに付いてきたものではありません。
当初付いてきたものは、絞りが激しく固着していたため、自動絞り動作の確認のため某所で入手した代替品です。
けっこう綺麗なレンズですが、たったの1500円。
人気がないとはいえ、Rマウントのレンズは安いです。
FDマウントのカメラであれば、プリセット絞りのレンズとして使えるはずなので、いつの日か、このレンズで写真を撮ってみたいと思います。




レンズマウントは、Canon Rマウントと呼ばれるブリーチロック式のものです。
ブリーチロック式とは、スピゴット式とも呼ばれますが、レンズ外周の締付リングでレンズを固定する方式のものです。
外爪がバヨネットマウントに見えますが、バヨネットとは異なり、レンズ本体は回りません。
Rマウントは、自動絞り機構などを変更しながら、FLマウント、FDマウント、New FDマウントへと進化していきました。
内径やフランジバックなど物理サイズはRマウントもFDマウントも同一ですが、自動絞り機構の互換性はないため、レンズとボディの種類によっては装着できるが使えない、という問題が発生します。
中には連動爪が干渉して、レンズやボディを傷つける組合せもあるようで、要注意です。


専用外付セレン光電池露出計です。
一眼レフなのに、TTLではなく外付セレン露出計というあたり、時代を感じさせます。一眼レフにTTL露出計が組み込まれるのは、4年後の"TOPCON RE Super"まで待たなければなりませんでした。

この露出計、簡単にスナップオンで付け外しができます。
上が取付前、下が取付後の様子です。

1959年に作られたこのセレン光電池、さすがに劣化しており、現在は信頼できる値を示しません。針が振れるだけマシといったところでしょうか。




専用露出計は、シャッタースピードダイヤルとギアで噛み合い連動するようになっています。
シャッタースピードダイヤルを1/125sec.にすると、露出計のダイヤルも1/125sec.を示します。
この時代、外付露出計でも、ライカメーターなどシャッタースピードダイヤルと連動できるものが流行っていたようです。

測光レンジは高低2段切換で、右側の円盤形ノブで切り替えます。
現在はオレンジ側、低照度モードです。
指針が示したオレンジ色のF値を読み取ります。
現在の照度は、1/125sec.のシャッタースピードでは、明らかにアンダーですね。
1/30sec.にしてもやっとこさ、F1.2~1.4ぐらいです。

ところで、このカメラ、軍艦部右側に巻き上げレバーが見あたりません。
どこにあるのか?というと、実はボトムカバーに巻き上げレバーが付いています。



底部のトリガー式巻き上げレバーです。
クランクは折り畳み可能となっています。
こうした底部巻き上げのカメラは、"Retina Reflex""Super Baldamatic I"など、1950年代にはけっこう多かったです。
キヤノンフレックスのトリガーレバーは軽い力で巻き上げられ、慣れれば速写も可能でした。
秒間3コマ可能、という記述も見受けられますが真偽のほどはよく分かりません。
しかしながら、ボトムトリガーレバーは三脚使用時に使いづらいということで、嫌うユーザは多かったようです。




ファインダーは交換式です。
ペンタプリズムアイレベルファインダーの他に、ウェストレベルファインダー、4倍マグニファイイングファインダーなどがあったそうです。
とはいえ、フォーカシングスクリーンは固定式で、システムカメラとして使うには中途半端な仕様といえました。
プリズムは50年前の製造にもかかわらず、固定にモルトなどを使っていないので腐蝕は皆無、若干黄色っぽいながら、今なおクリアな視界を保っています。




底部の巻き上げレバー以外は特に変わったところのないボディです。
シャッターは布幕横走りフォーカルプレーン。
50年近く前のカメラですが、シャッター幕はしっかりとしています。

しかし、速度はダメダメでした。
真面目に動いているような音を出しながら、満足に動作しません。
先幕と後幕のテンション調整をすればあるいは?とも思うのですが、こればっかりは開けてみないと分かりません。
良いカメラなのに、実に残念無念なことであります。
ボディ各部のカニメネジを見ていると、無性に開けたくなる衝動に駆られ、たいへん危険な状態です。^^


Canonflexはキヤノンが満を持して開発した一眼レフであったにもかかわらず、Nikon Fには到底敵うことができなかったカメラでした。
機構的な弱さの他、システム的な不備も敗因でした。
Nikon Fは、21mm~1000mmの交換レンズラインナップを持っていたのに対し、初期のCanonflexは、自動絞り対応レンズとしては、50mm/F1.8と100mm/F2があるだけ。
特に広角レンズがなかったことが決定的でした。
その他、フォーカシングスクリーン固定で用途に応じて交換できなかったこと、視野率100%ファインダーを持たなかったこと、ミラーアップ撮影ができなかったことなども不利な点でした。
同じく一眼レフとしては後発だったNikon Fに比べると、詰めがが甘かったと言わざるをえません。
[PR]
by xylocopal2 | 2008-02-20 16:35 | Hardware
<< グローブマート開店10周年 箱入娘猫 >>


Copyright © 2004-2010 Xylocopal All Rights Reserved