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2007年 03月 01日 元祖一眼レフ Ihagee Exakta Varex IIa




中世ヨーロッパ騎士の甲冑を思わせるこのカメラ。
クラシックカメラ入門書には必ず載っている、東ドイツはドレスデンの名産品、イハゲー社のエキザクタです。
細かいことをいうと、1958年製造のExakta Varex IIa ver.5.1.2。
Exakta Varex IIaまでが正式名称で、ver.5.1.2は研究者/コレクターによる分類です。
エキザクタシリーズは、バルナックライカやライカMシリーズのように、研究者/コレクターにより非常に細かく分類されており、バージョンの数え方も複数あるようです。
Varex IIaには、上の写真のように、銘板が筋彫(Engraved)のものと、浮彫(Embossed)のもの、そして黒地白文字のモダンなものがありますが、コレクター人気があるのはエレガントで華麗な浮彫銘板のようです。
私は、筋彫の方が質実剛健にして渋く美しいと思っていたので、こちらを選びました。
なお、対米輸出用のVarexは、商標上の問題から、Exakta VXを名乗っていました。






1958年製造にしては古めかしい形です。
同じ年に西ドイツで作られていた"Agfa Agfaflex""Voigtländer Bessamatic"などに比べると、古色蒼然という言葉がふさわしいたたずまいです。
現代でこそ、Exakta Varex IIaのデザインはシックで格調高く美しいものと思えますが、1958年当時はさぞかし時代遅れの古くさいものとして人々の目に写ったに違いありません。

Varex IIaが古めかしいのも当然で、このカメラの原型"キネエキザクタ"が作られたのは1936年(昭和11年)のこと。
つまり、第二次世界大戦前のデザインということになります。
"キネ=Kine"というドイツ語は英語の"Cine=シネ"、つまり35mm映画フィルム(135判)を使うエキザクタという意味です。
キネではない、オリジナルのエキザクタの誕生は1933年。
"Vest Pocket Exakta A"といい、4cm幅のヴェスト判(127判)フィルムを使う少し大振りなカメラでした。
左右対称台形フォルムは、その当時からエキザクタのスタイリングを象徴するものでした。
翌年発売された、"Vest Pocket Exakta B"になると、Varex IIaと非常によく似た姿となっています。

エキザクタは、意匠こそ古めかしいものの、現代の一眼レフの直系先祖にあたります。
世界最初の135判一眼レフは、1936年に作られた旧ソ連GOMZの"SPORT"ということになっていますが、キネエキザクタも同じ年に完成しています。
プロトタイプとしてのVest Pocket Exaktaを考えれば、エキザクタの方が開発が古いように思えます。
12sec.~1/1000sec.の多彩なスピードを持つフォーカルプレーンシャッター、跳ね上げミラーによる一眼レフ方式、バヨネットマウント式交換レンズ群、レバー式巻き上げ機構、これらの機能が70年前に実現されていたというのは驚きです。






トッププレート左側です。
カメラの上部構造のことを「軍艦部」と呼びますが、エキザクタはそう呼ぶのがふさわしいですね。
ゴチャゴチャした機構が、軍艦の艦橋やマスト、煙突などに見えるのです。

エキザクタは、シャッターレリーズ、巻き上げなど主要操作を左手で行うようになっています。
左利きの設計者が作ったのか?というような操作系のため、右利きの人間が使う場合、最初はとまどいます。
右指がカラ撃ちしてしまうのです。じきに慣れてしまいますが。

右上に見えるのが高速シャッターダイヤル。
1/25sec.以下の緩速シャッターダイヤルは軍艦部右側にあります。
Varex IIaのシャッターは、2軸回転式非倍速系列と呼ばれる古典的なものです。

現在の設定値は1/250sec.。
Bはバルブ、Tはタイムです。
タイムというのは昔のシャッターによく付いていたもので、レリーズボタンを一回押すとシャッターオープン、もう一回押すとシャッタークローズとなる仕掛けです。
バルブがレリーズボタンを押しっぱなしにしていないといけないのに対し、タイムは指先を離してもシャッターオープンです。
5分とか30分とかの長時間露光を必要とした大昔のカメラの名残と思われます。

シャッターダイヤルは、シャッターチャージ、つまりフィルム巻き上げを行うとき、巻き上げ角度にあわせて回転します。
レリーズボタンを押したときも回転します。
これが「回転式」と呼ばれるゆえんです。
バルナックライカやそのコピーなどでよく見かけるシャッターですが、知らない人が使うと、レリーズ時、指にダイヤルが当たってシャッターが降りない、厳密に言えば後幕が閉まらないということがあります。確実に露出オーバーになります。

真ん中に見える棒状のものがフィルム巻き上げレバーです。
しゃらくさいことに、セルフコッキングです。
フィルムを巻き上げると同時に、シャッターがチャージされます。
巻き上げ角は異様に大きく、ほぼ300度。
シャッターダイヤルの反対側に当たるまで巻き上げます。
角度が大きい割には操作感が軽いため、巻き上げは快適です。

左下に見えるのがフィルムカウンターです。
今の枚数は15枚目です。
順算式で、巻き上げ時には加算せず、シャッターが降りた瞬間に加算されます。
裏蓋開閉時に自動復帰するタイプではないので、フィルム装填後に手動で初期値をセットする必要があります。
奥の方に見える矢印が付いた小さなダイヤルで、初期値(たいていは1ですね)をセットします。

カウンターの右側、一番手前に見える小さな筒状の突起はリバースクラッチです。
フィルムを巻き戻すとき、この突起を押すと、フィルムスプールがフリーとなり、巻き戻すことができます。
ただし、巻き戻し中は押しっぱなしにする必要があります。

エキザクタの操作感は、そのゴツくさい外見とは裏腹に非常に滑らかです。
今まで使ったことがある何台もの東ドイツ製の某カメラとは雲泥の差です。
精密なカラクリ時計のような感触、というべきでしょうか。
各部品の製造精度/組立精度が高く、いかにもベテランマイスターが手がけた製品という感じがします。
フィルムを巻き上げるときのラチェットの効いたカチカチカチという音など、機械好きな人なら痺れること請け合いです。
36枚撮りフィルムの最後まで、軽い感触で巻き上げ可能なのは、設計の良さと部品精度によるところが大きいように思われます。
何しろ、36枚撮りフィルムを入れると、最後の方は怪力を必要とし、ときにはフィルムがちぎれてしまう危険なカメラさえあった時代ですから。

戦後、社会主義体制になってもこの品質を維持できたのは、イハゲー社がオランダ資本のため、人民公社組織に長い間組み込まれずに済んだ、という背景があるようです。
さすがに、"EXA 1b"の時代ともなると、イハゲー社製品といえど、見事なCOMECON陣営的品質に変貌を遂げていますが。






レリーズボタンです。
もちろん、左手人差指用。
真ん中に見えているのは、レンズから生えたレリーズエクステンションで、カメラのレリーズボタンは、その後ろに写っています。
軸がずれているように見えますが、まぁ、こんなもののようです。
カメラ側レリーズボタンの上に見えるハーフドーム状のカバーは、レリーズロック用のものです。
これを下に降ろすと、レリーズすることができません。
誤レリーズ防止用の装置ですね。

レンズから生えているレリーズエクステンションは、エキザクタ特有のものですが、実絞りやプリセット絞りのレンズにはなく、自動絞りや半自動絞りのレンズのみにあるものです。
M42マウントの場合は、カメラ側のピン押し機構がレンズの絞りを動かしますが、エキザクタマウントでは、ダイレクトに指で押すことになっています。
レリーズボタンを押すと、まず絞りがセットした絞り値まで絞り込まれ、つぎにカメラ側レリーズボタンが押し込まれ、シャッターが下りるという仕掛けになっています。

写真に写っている、Carl Zeiss Jena Biotar 58mm F2は半自動絞りです。
レリーズを押すまでは開放になっていますが、レリーズの瞬間に絞り込まれ、そのまま復帰しないという方式です。
Varex IIaはクイックリターンミラーではないので、半自動でも困ることはないというのか、全自動でもありがたみがないのですが。






カメラをひっくり返して、底の方から見たところです。
レンズの根元、"GERMANY"の文字のそばにスリットとレバーがあります。
これは、絞り羽根を、開放からセットされた絞り値まで瞬時に動かすためのバネをチャージするためのものです。
このレバーをセットしないと、絞りは絞られたままです。
実にたわいもない仕掛けですが、プリセット絞りよりはよほどスマートです。
この動作を人力でえっちらおっちらやるのがプリセット絞りですから。






M42マウントと並ぶ中古レンズマウントの雄、エキザクタマウントです。
しゃらくさいことに、バヨネットマウントで、フランジ面の中と外に爪が見えています。
ミラーボックス側の爪にロックさせるレンズが多いのですが、外側の爪にロックさせるレンズもあるようです。
スピゴットマウント、ブリーチロックと呼ばれるものでしょうか。

X接点マーク下にあるのは、位置決めピンロックレバーです。
レリーズボタンカバーはロックの位置です。
ミラーは降りていますが、Varex IIaはクイックリターンミラーではないため、フィルムを巻き上げないとミラーが降りてきません。
ファインダーを覗いても何も見えないときは、フィルムを巻き上げると見えるようになります。
ミラー受けはモルトではなく毛織物です。まったく劣化していません。

銘板下の"Ihagee Dresden"は、ドレスデンのイハゲー社だよ、というブランドです。
Carl Zeiss Jena、Schneider Kreuznachあたりと同じです。
日本だと、"Cosina Nakano"でしょうか。
IhageeとDresdenの間にあるのは、ファインダーロック解除レバーです。
このレバーを下に押すと、ファインダーが外せるようになります。






ペンタプリズム右側のセルフタイマー兼用緩速シャッターです。
軍艦部左側の高速シャッターダイヤルを、B or Tにセットした上、このダイヤルを操作します。
まず、緩速シャッターダイヤルを上に引き抜き、時計回りにグリグリ回して、バネをチャージします。かなり力が要ります。
一部では、あまりにも力が要るので、緩速シャッターを右側に付けた、その結果、左手操作のカメラになったといわれています。

バネをチャージしたら、スローシャッターの場合、黒文字の1/5sec.~12sec.にダイヤルをセットします。
上の場合は2秒ですね。
レリーズボタンを押すと、シャッター先幕が開き、指定秒時が経過すると後幕が閉じます。
セルフタイマーの場合は、赤文字の1/5sec.~6sec.にダイヤルをセットします。
レリーズボタンを押すと、10秒ほど経過してから、指定秒時の間シャッターが開きます。
このときのスローガヴァナーが奏でる"チィ~ッ"という音が何ともいえず気持ちがいいです。
こういう音を聞いてニタラニタラしている人は、かなり重症の中古カメラウィルス感染者です。

緩速シャッターダイヤル外周部分は単なるリマインダーです。
フィルムの感度、カラー/モノクロの種別などをメモしておくダイヤルですが、最高でも400までしか数字がありません。
そのかわり、25以下がいやに多いです。
ASAではなくDINなのか?とも思いますが、たぶん、そういう時代だったのでしょう。
1958年といえば、ASA(ISO)100フィルムが超高感度フィルムだった時代ですから。






左手巻上のエキザクタは、当然ながらスプロケット/巻き上げ軸も左側にあります。
"Zeiss Ikon Contessa 35""Rollei 35"など、左巻上軸/右パトローネというカメラはけっこうありますが、一眼レフでは少ないと思います。
シャッターは布幕フォーカルプレーンです。

巻き上げ軸はスプール取り外し式です。
バルナックライカをはじめ、昔は多かった方法です。
左手前が、カメラ付属のノーマルスプール。
左奥が手持ちのマガジン式スプールです。
フィルム供給側/受取側双方にカートリッジを使うダブルマガジン方式というものが、昔は存在しました。
その理由は、以下を読めば分かります。






エキザクタ名物のフィルムカッター。
キネエキザクタ時代からの標準装備品です。
写真中央に見えるのが、ビルトインの刃先です。
ボディ底部のノブを下に引っ張ると、この刃先がフィルムをスゥ~ッと切り裂くようになっています。
パトローネ室内蔵フィルムカッター‥‥、なかなか不気味なカメラです。
赤瀬川原平師匠は、「奥歯に自決用青酸カリを仕込んだスパイのようでゾッとする」と書かれていましたが、的確な表現だと思います。






このゾルゲカッター、実用になるのか試してみました。
サクッとシャープな切れ味です。
さすがはゾーリンゲンの‥‥、
あ?何を書いているのだ?そうそう、使用目的でした。
昔はフィルムというものが非常に高価だったのだと思います。

  36枚撮りフィルムを詰めて6枚撮った。
  至急、今撮った分を現像したい。
  しかし、まだ30枚分残っている。
  使わずに現像するのはもったいない。

  じゃあ、撮った分だけ、ちょん切って取り出すか。
  でも、裏蓋を開けると、巻き取り側が感光してしまう。
  暗室かダークバッグがいるぞ。
  いやいや、そのために巻き取り側もマガジンにしておいたのだ。
  ハサミがなくても、ほれ、このとおり。
  スパ~ッ。

まぁ、こんな用途だったのだろうと思います。
わざわざ、こうしたギミックを付けるということは、1930年代はフィルム1本の値段が、勤労者階級の月収の1/10ぐらいはしていたのではないでしょうか。
このカメラ、36枚撮りフィルムを1時間で撮りきってしまうと、たたられそうです。






エキザクタは、1950年まではウェストレベルファインダーのカメラで、縦位置が滅法撮りにくい、横位置専用カメラでした。
ペンタプリズムファインダーが載るようになったのは、1950年からです。
ペンタプリズム搭載可能となったエキザクタから、"Varex"の名前が付くようになりました。
実用はプリズムファインダーの方が使いやすいのですが、格好よく見えるのは、やはりウェストレベルファインダーの方ですね。
上は、"EXA 1b"に付いていたver.6ファインダーを付けてみたところです。
年代的に、Varex IIaには少し新しい感じがしますが、後継機のVarex IIb用ですから、似合っているような気もします。






エキザクタが最も美しく見えるアングルは、このあたりでしょうか。
精密機械のメカニカルな美しさ、いかにもクラシックカメラらしい大時代的な意匠、たしかにクラカメ大図鑑が載せたくなるような姿です。
しかし、実際に使ってみても、エキザクタはなかなか良いカメラですよ。
使いやすいとまではいいませんが、死ぬほど使いにくいわけでもありません。
実写例は下にあります。

 Xylocopal's Photolog 2007/02/20 "A day in Sun Light"
  http://xylocopal2.exblog.jp/5571634

 Xylocopal's Photolog 2007/02/23 "ノリタケ発祥地にて"
  http://xylocopal2.exblog.jp/5592411
by xylocopal2 | 2007-03-01 16:39 | Hardware
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