年明け早々、また、レンズ買ってしまいました。 FUJINON 55mm F1.8。 フジフイルムの銘玉として名高い、EBC FUJINON 55mm F1.8に似ていますが、これはEBCコーティングではありません。 EBCというのは、"Electron Beam Coating"の頭文字で、フジフィルムが開発した11層にも及ぶマルチコーティングのことです。 SMCといえばペンタックス、SSCといえばキヤノン、BBARといえばタムロン、EBCといえばフジフイルム。 EBCの名前は、現代に至るまでフジフイルム製レンズの看板となっています。 しかし、このレンズはEBCではありません。 アンバー~ゴールドに輝く、透過率はイマイチそうなコーティングです。 Auto Yashinon DX 50mm F1.7、Super Takumar 50mm F1.4あたりに酷似した金色系コーティングです。 技術的年代としては、1960年代後半といったところでしょうか。 FUJINON 55mm F1.8は、1970年、富士フイルム初の一眼レフとして発売されたFUJICA ST701の標準レンズだったレンズです。 しかし、私の手元にあるレンズはST701付属のFUJINON 55mm F1.8とはかなりデザインが違います。 金属ローレット、銀色絞り環ではありませんし、被写界深度ゲージはカラフルに色分けされています。 むしろ、1972年発売のFUJICA ST801以降のEBC FUJINON 55mm F1.8にそっくりです。 FUJICA ST801から装備された開放測光用絞り連動爪も付いています。 どう見ても、ST801が発売された1972年以降の製品と思われます。 ダイアゴナル模様の樹脂製ローレット、色分けされた絞り指標と被写界深度ゲージ、そして、開放測光用絞り連動爪。 これらはすべて、EBC FUJINONの特徴です。 なのに、このレンズはEBCではない。 1972年、FUJICA ST801の発売以降、富士フイルムの一眼レフ用レンズはすべてEBC化されたものとばかり思っていましたが、例外もあったようですね。 なお、EBC FUJINON 55mm F1.8には、ローレットデザインや全体のサイズが異なるタイプもあります。 なかなかややこしいレンズです。 FUJINON 55mm F1.8は4群6枚の典型的なダブルガウスタイプのレンズです。 前群に3枚、後群に3枚、対称型レンズとも呼ばれるエレメント構成です。 この時代の50mmクラスのダブルガウスタイプレンズでは、一眼レフゆえのフランジバックの長さを補正するために最後に一枚足して、5群7枚となっているものが多いですが、このレンズは古典的な4群6枚です。 レンジファインダーカメラ用のダブルガウスタイプレンズは、こうした綺麗な対称型をしている場合が多いようです。 このレンズ、開放測光を行うために、M42マウントを独自拡張しています。 開放測光の理屈については、"Xylocopal's Photolog 2006/10/05 縞々ゼブラなパンコラー"で説明してありますので、興味のある方は読んでみてください。 開放測光を行うためには、レンズの開放F値、現在の絞り値をカメラ内蔵の露出計に伝える必要があります。 そのため、各社工夫を凝らし、ツメを取り付けたり、電気接点を付けたりしました。 富士フイルムの場合は、マウント外周の絞りリングにツメを付けました。 絞りを動かすと、このツメが動いて、カメラに現在の絞り値を伝えるようになっています。 このツメ、1mmほど出っ張っているため、フジフィルム製一眼レフ以外のボディに取り付けると、ツメがフランジ面に当たってしまい最後までねじ込めないことがあります。 そうした場合、レンズ指標は∞(無限遠)を示しているのに、実際は3-5m付近にピントが合ってしまうということが起こります。 近接撮影は問題ないのですが、どうやっても無限遠にピントが合いません。 開放測光時代に入り、各社が独自拡張を行うようになって以降、「M42マウントはユニバーサルマウントで、どんなレンズでも取り付けられる」という常識が怪しくなってしまったのです。 幸いなことに、うちにある3台のM42マウントボディ、"Voigtlnder Bessaflex TM"、"Revueflex SD1"、"CHINON CS-4"では、まったく問題なくツメ付フジノンを装着することができます。 最後までねじ込めますし、無限遠にもピントが来ます。 いずれも、フランジリングの幅が狭く出っ張っているために、ツメがうまく逃げて干渉しないようになっているのです。 コシナ、チノンともに、様々なメーカーのレンズが取り付けられることを想定済みのようで、よく考えて作られていると思います。 しかし、マウントアダプターはそうはいきません。 下は、うちにあるCanon EOS EF<->M42マウントアダプターですが、いずれもフランジ面の幅が広く作ってあるため、フジノン開放測光レンズのツメがまともに当たります。 FUJINON 55mm F1.8は、AUTO<=>MANUAL切換スイッチがなく、絞り込みレバーの類もないので、絞って使いたいのなら、常時ピン押しタイプのマウントアダプターを使う必要があります。 うちには、常時ピン押しでフランジの厚さが薄いタイプのアダプターがあるので、これを使ってみることにしました。 上の手前のものです。 これは、通常のフランジの半分ぐらいの厚さしかない、ペラペラのアダプターです。 材質はアルミニウムで、右上の真鍮製メッキ仕上げのものに比べると、だいぶ安物感が漂うアダプターです。 このアダプターに普通のレンズを取り付けると、オーバーインフ、つまり、無限遠をかなり通り過ぎたあたりまでレンズが引っ込みます。 最短撮影距離も少し長くなります。 試しに、FUJINON 55mm F1.8をこのアダプターを介して取り付けたところ、見事に無限遠が出ます。 無限遠どころか、オーバーインフ域まで回ってしまいます。 なるほど、このペラペラのアダプターはこういう時に使うものだったのか、と納得しました。 ただし、ツメをギュウギュウとフランジ面に押しつけていますから、装着状態で絞り値を変更するのは事実上無理です。 絞り環が回りません。 少しレンズを緩めれば、絞りを変えられますし、私はあまりこまめに絞りを変える方ではないので、これで充分なのですが。 上の写真、フランジ面に白っぽく付いている傷は、フジノンのツメによるものです。 結構凶悪なツメなので、付きそうもないマウントに無理矢理ねじ込むのはやめた方がいいと思います。 以下、作例です。 EOS30Dで撮ったものはノーレタッチ縮小のみ、Revueflex SD1で撮ったものは記憶色に近づけ、なおかつ最小限のレタッチをしています。 カラーネガフィルムで撮った写真の場合、オリジナルに忠実といっても、そもそもフィルム上でトーンが反転しているわけですし、ノーレタッチという概念が当てはまらないです。 Canon EOS 30D / FUJINON 55mm F1.8 アネモネですね。冬場の花では一番豪華なものじゃないでしょうか。 絞りはF4だと思います。ISO100でシャッタースピードが1/800sec.になってますから。 シャープネスは申し分ありません。 RICOH XR RIKENON 50mm F2に印象が似ています。 パキーンと音がしそうなカリカリフォーカスです。 その上、意外にボケは綺麗です。 4群6枚というシンプルな構成ながら、なかなか侮れない描写です。 Canon EOS 30D / FUJINON 55mm F1.8 半逆光のシクラメン。絞りはF4、たぶん。 EBCコーティングではない少々時代遅れのアンバーコーティングですが、逆光にべらぼうに弱くボロボロのメタメタ、ということはないですね。 冬場の低い太陽が、画角のすぐ上にあるわりにはしっかりとした発色です。 シャドウのコントラストがイマイチという意見もあるでしょうが、私はこれぐらいヌルいコントラストの方が好きです。 ボケは全然期待していなかったのですが、これ結構いいんじゃないでしょうか。 点光源の六角形絞りのボケ方も綺麗です。 Revueflex SD1 / FUJINON 55mm F1.8 Konica Minolta Centuria Super 100, EPSON GT-X750 この鈍い発色はレンズのせいじゃないです。 コニカミノルタ謹製の別格激渋カラーネガフィルム、センチュリアスーパー100のせいです。 ふだんは、もう少し彩度を乗せるんですが、ほどほどにしたらこんな色になりました。 まぁ、センチュリアスーパーってのは、こんなフィルムです。 絞りは、F2.8 or F4だと思います。 光線がフラットなせいもありますが、柔らかい描写も悪くないですね。 Revueflex SD1 / FUJINON 55mm F1.8 Konica Minolta Centuria Super 100, EPSON GT-X750 逆光撮影です。絞りはF5.6だと思います。 もう少しフレアが出るかな?と思いましたが、何も出ていないですね。 コントラストもしっかりしています。 もちろん、フードは付けていますが。 EBCではないフジノン、想像以上に良いレンズでした。 これで、EBCコーティングがしてあれば、さらに美味しいのでしょうね。 状態の良いEBC FUJINON 55mm F1.8を見つけたら、たぶん買うでしょう。 というわけで、今年も病気は治りそうもありません。^^
by xylocopal2
| 2007-01-13 23:55
| Hardware
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