Copyright © 2004-2010 Xylocopal All Rights Reserved
Top
2006年 10月 26日 放射能レンズ ガンマ線量実測




財団法人 放射線計測協会で無料貸出を行っている簡易放射線測定器を借りてみました。
愛称は、「はかるくん」
昔ながらのガイガーミュラー計数管ではなく、シンチレーション検出タイプと呼ばれるもので、上のタイプの「はかるくん DX-200」は放射線の中でもガンマ線だけしか測れません。

上は、「はかるくん」を、旭光学製Super-Takumar 50mm F1.4の後玉ギリギリの場所に置き、ガンマ線を測定しているところです。
この写真はPhotolog掲載用のセット写真ですが、「はかるくん」の液晶に表示されている、"4.726"という数値は、この写真を撮ったときに放射されていたガンマ線の実測値です。
単位は、μSv/h(マイクロシーベルトパーアワー)。
つまり、1時間あたりに換算すると、4.726マイクロシーベルトのガンマ線が測定されている、という写真です。

このような放射線を出すレンズは、「放射能レンズ」、「アトムレンズ」などと俗称されていますが、1950年代から1970年代にかけて多く作られました。
ライツ・沈胴ズミクロン、コダック・エアロエクターなどが知られていますが、国産レンズにも少なくありません。
これらのレンズで放射線がカウントされるのは、光学ガラスに放射性物質である酸化トリウムという物質が混ぜられているためです。

トリウムは原子番号90の放射性物質です。
キュリー夫人が研究したことで知られる、古くから認知されていた放射性物質で、原子力発電所の燃料として利用することもできます。
このトリウム、ガラスに混ぜると屈折率が上がり、光学特性が飛躍的に向上することが知られていました。
そのため、かつては多くのレンズメーカーで硝材添加剤として使われたのです。
実際、放射線を出すレンズには、名玉と呼ばれるものが少なくありません。

上の写真、「はかるくん」の先端部に"+"と記されている部分がガンマ線のセンサー部分です。
ほとんど密着状態でガンマ線を測っていることになります。
なぜ、後玉を測っているのかというと、放射線の線源となる酸化トリウムを使ったエレメントは後玉付近に多いらしいという理由からです。
nekocameさんの放射能レンズの測定結果を見ても、後玉付近で最も多くのガンマ量が観測されています。
この放射能レンズのコンテンツはよくまとまっており、分かりやすいので、ぜひ御一読されることをお勧めします。

上で計測中のSuper-Takumar 50mm F1.4は、Xylocopal's Photolog 2006/09/29 "とってもアレゲな Super Takumar 50mm F1.4"Xylocopal's Photolog 2006/10/18 "8枚玉のスーパータクマー"などで何回も書いた初期型8枚玉スーパータクマーではありません。
「はかるくん」が届くのに合わせ、某所で拾ってきた後期型7枚玉のスーパータクマー50mm/F1.4です。
ガラスは真っ黄色というよりも番茶色に変色し、いかにもトリウムたっぷりといった風情のレンズです。
比較のために、ふたつを乳白色アクリル板の上に並べてみました。





右が8枚玉のスーパータクマー50mm/F1.4。
レンズ銘の"1:1.4/50"の文字の後に、"Asahi Opt. Co.,"という文字が来るのが8枚玉、シリアルナンバーが来るのが7枚玉といわれています。
少しアンバーがかって見えるのはコーティングの写り込みで、実際にはほとんど無色透明です。

左が、今回拾ってきた比較用の7枚玉スーパータクマー50mm/F1.4。
見事なまでの黄変、まるで色温度変換用のLBAフィルターのようです。
写真用レンズの黄変は、コーティングやバルサム(貼り合わせ面の接着剤)の変質による場合もありますが、ガラスのブラウニング現象と呼ばれるものである場合が多いといいます。
ブラウニング現象とは、高速中性子によるガラスの黒化現象で、第二次世界大戦中の米国において、原爆製造用原子炉監視装置開発過程で発見されたといわれます。
ブラウニング現象回避のために研究されたのが有機ガラスであり、今日アクリルガラスとして知られているものです。

さっそく、「はかるくん」で黄変レンズのガンマ線量を調べてみましたが、やはり多いですね。
最初の写真のとおり、4.7μSv/h前後。
手持ちのレンズの中では最も強いガンマ線を出していました。
バックグラウンドの自然界放射線のざっと100倍。誤差の範囲ではありません。

一方、黄変していないスーパータクマー50mm/F1.4では、有意なガンマ線が確認できませんでした。
バックグラウンドの自然界放射線に埋もれてしまい、何も出てこないのです。
ということは、8枚玉スーパータクマー50mm/F1.4は放射線を出さないと考えて良さそうです。

以下に、手持ちのレンズの測定結果を掲載します。
測定対象は、1940年代~1970年代に製造されたレンズ。
計測した放射線は、「はかるくん」で計測できるガンマ線のみ。
計測を行った部屋の自然界放射線量は、0.03~0.06μSv/h。
これが、バックグラウンドのガンマ線量になります。
この値程度の計測結果であれば、有意なガンマ線放射量はないと考えて良さそうです。

計測は、上の写真のようにレンズ後玉に「はかるくん」をほとんど密着状態で行いました。
写真はデモ用のため、複数のレンズを置いていますが、実際には測定対象レンズのみを置き、部屋の中央、周囲2m四方には電気製品がない状態で計測しています。
レンズ名の下にある数字が計測結果です。
1分ごとに3回計測しています。
単位はμSv/h。(マイクロシーベルト/hour)


計測地点: 愛知県名古屋市千種区
計測日時: 2006年10月25日(水) 16~18時
計測時の室内自然放射線量レベル: 0.03~0.06μSv/h


●有意な放射線量を計測したレンズ
------------------------------------------------------------
Asahi Opt. Co., Super-Takumar 1:1.4/50 SN.2947019 (7枚玉)
 4.671、4.715、4.723

YASHICA AUTO YASHINON DS-M 50mm 1:1.4 SN.1052041
 2.132、2.094、2.112

Asahi Opt. Co., SMC TAKUMAR 1:1.8/55 SN.7679450
 1.571、1.532、1.541


●バックグラウンドレベルと同等だったレンズ
------------------------------------------------------------
Asahi Opt. Co., Super-Takumar 1:1.4/50 SN.1063739 (8枚玉)
 0.047、0.042、0.040

YASHICA AUTO YASHINON DX 50mm 1:1.7 SN.57012770
 0.044、0.049、0.048

VOIGTLANDER COLOR-ULTRON 1.8/50 SN.2311820
 0.036、0.046、0.043

CARL ZEISS JENA electric MC PANCOLAR 1.8/50 SN.10119361
 0.044、0.037、0.042

Carl Zeiss Jena DDR Tessar 2.8/50 SN.9183920
 0.045、0.045、0.041

Carl Zeiss Jena Tessar 2.8/50 T 3852304
 0.045、0.042、0.047

Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35 SN.8251873
 0.045、0.043、0.047

AUTO REVUENON 1:1.9 f=50mm SN.963725
 0.037、0.039、0.042

PENTACON auto 1.8/50 SN.5974842
 0.046、0.050、0.048、

Kodak Ektar Made in U.S.A. f3.5 50mm ES3696
 0.040、0.037、0.038

Schneider-Kreuznach Retina-Xenon 1:2 F=5cm SN.1964852
 0.047、0.044、0.032
------------------------------------------------------------


測定結果は、だいたい予想のとおりでした。
Auto Yashinon DS-M 50mm F1.4は、富岡光学製といわれるレンズで、わずかに黄変しています。
SMC Takumar 55mm F1.8は、トリウムレンズとしてすでによく知られているもののひとつです。
意外だったのは、Kodak US.Ektar 50mm F3.5。
あまりにも素晴らしすぎる写り、製造年代、Ektarという名前から、まず間違いなくトリウムレンズだろう、と考えていましたが、有意なガンマ線は計測されませんでした。
Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F1.4がトリウムレンズだという話はときどき聞くので、F1.8のパンコラーはどうかな?と思いましたが、こちらは放射線を出していないようです。

nekocameさんの測定の追試となったわけですが、結果はほとんど同じです。
一番多くのガンマ線を出していた、Super-Takumar 50mm F1.4で、5~6μSv/hです。
この値をどう考えるかは、人それぞれだと思いますが、私は注意しながら使います。

人体に対する放射線の影響は下記のようなものが一般的です。
単位はミリシーベルト(mSv)ですから、「はかるくん」の表示単位、μSvの1000倍です。

------------------------------------------------------------
 0.1-0.3mSv: 胸部X線撮影
 2.4mSv: 一年間に人が受ける放射線の世界平均
 4mSv: 胃のX線撮影
 7-20mSv: CTスキャンによる撮影
 50mSv: 原子力関連業務につく人が一年間にさらされてよい放射線の限度
 250mSv: 白血球の減少(一度にまとめて受けた場合、以下同じ)
 500mSv: リンパ球の減少
 1000mSv: 急性放射線障害。悪心、嘔吐など。水晶体混濁。
 2000mSv: 出血、脱毛など。5%の人が死亡
 3000-5000mSv: 50%の人が死亡
 7000-10000mSv: 100%の人が死亡
------------------------------------------------------------

6μSv/hの放射線を出すスーパータクマー50mm/F1.4を腹巻きの中に入れ、寝るときも風呂に入るときも24時間肌身離さず密着させたまま、1ヶ月を過ごした場合の累積被爆量は、おおよそ4mSvになります。

 6μSv × 24 × 30 = 4320μSv = 4.32mSv

バリウム胃透視X線撮影で一度に受ける放射線量とほぼ同じです。
この腹巻トリウムタクマー状態を1年間続けると、およそ52.5mSvの累計被爆量になります。

 6μSv × 24 × 365 = 52560μSv = 52.56mSv

放射線技師や原子力関連業務につく人の1年間の許容限度と大体同じです。
これは、医療法施行規則第30条の27(線量当量限度)に定められている数字で、国連科学委員会(ICRP)によると、現在および将来においても健康を損なう恐れがないとされている被曝量です。
妊娠可能な女子の腹部に対しては、年間13mSvが許容限度となっています。
年間50mSvというのは、なかなかの被曝量といえます。
なかなかの被曝量ではありますが、24時間365日、身体にレンズを密着させ続けるという状況は特殊すぎてあまり現実的ではありません。
週末に2~3時間レンズに触れるという使い方であれば、特に問題はないような気がします。

トリウムレンズを、4x5シートフィルムの上に置いたままにしておいたら感光したという話を聞いたことがありますが、たしかにこの線量であれば、長期間の場合、可能性はあります。
一方、スーパータクマーをカメラに付けたら、フィルムがカブったという話はあまり聞きません。
M42マウントのフランジバックは45.5mmですから、後玉の出っ張りを考慮に入れると、後玉端からフィルム面までの距離は40mmほどということになります。
線源から40mm離れただけで被爆量は漸減し、後玉直近で4.7μSv/hあったスーパータクマー50mm/F1.4の場合、ガンマ線量は0.80μSvと1/6に減ってしまいます。
線源からの距離を変えて、ガンマ線量の実測値を調べてみました。

 0cm: 4.7μSv/h
 4cm: 0.80μSv/h
 8cm: 0.350μSv/h
 15cm: 0.170μSv/h
 30cm: 0.080μSv/h
 50cm: 0.045μSv/h ※バックグラウンド放射線レベルと同じ

0.80μSv/hの放射線を数日間当てたぐらいではフィルムは感光しないということなのだろうと思います。
1年以上フィルムを入れっぱなしにしておけば、多少は影響がありそうですが、潜像やフィルム使用期限の影響の方が大きそうです。

結局、線源からの距離と被曝時間に相関するというところでしょう。
普通に使っている限りは、まず問題はない。
普通に使わないと問題が起こる、かもしれない、ということのようです。
夜ごと、トリウムレンズを抱いて寝るなどという阿呆タレなことをしない限り、寿命が縮むことはなさそうです。
[PR]
by xylocopal2 | 2006-10-26 22:25 | Hardware
<< 腐っても鯛なカラーウルトロン 木漏れ日の古社 >>


Copyright © 2004-2010 Xylocopal All Rights Reserved