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2006年 10月 27日 腐っても鯛なカラーウルトロン



Canon EOS 30D / Tamron SP AF28-75mm F2.8 XR Di
ISO100, Av -2.0EV, F5.6, 1/15sec., WB:Manual


Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8。
七色に輝く華麗なコーティングが美しいレンズです。
コーティングの美しさと光学特性の良さが比例するわけではありませんが、これほど見事なマルチコーティングは、現代のレンズでもなかなか見ることができません。

カラーウルトロンは、1970年代中頃に作られたシンガポール製レンズです。
当時のフォクトレンダー製一眼レフ、"Voigtländer VSL1 TM"の標準レンズとされていました。
このレンズ、絞り値に応じて深さが変わる溝がフランジ面にあり、VSL1 TMなどのカメラに付けると開放測光で使えます。
TMというのは、Thread Mount、つまりネジ込み式スクリューマウントを意味します。
VSL1には、ローライQBMバヨネットマウントモデルもあったため、M42マウントのものを"TM"と呼び区別しています。

私の手元にも、"TM"銘のカメラがあります。
コシナ製フォクトレンダー、Voigtländer Bessaflex TM Silver
レンズマウント基部に"TM"の刻印があります。
フォクトレンダーの血脈を感じるというよりは、トプコンREスーパーのパチモンといった風情のデザインですが、これにカラーウルトロンを付けると、なかなかよく似合います。
ペンタ部の"Bessaflex"の文字が"Voigtländer"であれば純正レンズに見えるところです。





星降る南洋の港で作られたレンズが、30数年の星霜を経た後、リンゴの名産地で作られた同じ名前を持つカメラと出会うというのは、なかなかにロマンチックであります。
コシナ製ウルトロンをBessaflexに付けても当たり前なだけで、こうした時空を超えたドラマを妄想することはできません。
こうなると、ドイツはニーダーザクセン州ブラウンシュヴァイク産の正調フォクトレンダーM42マウントレンズが欲しくなるところです。
フォクトレンダーのボディにはフォクトレンダーのレンズを付けてやりたくなる、というのは人情ですね。

フォクトレンダーというのは、世界最古のカメラメーカーということになっています。
1756年、神聖ローマ帝国時代のウィーンで創業した後、1849年にドイツ・ブラウンシュヴァイクに本拠を移しました。
ブラウンシュヴァイクこそはフォクトレンダーが黄金時代を築いた地、いわば聖地です。
イエナにカール・ツァイスあり、ウェッツラーにエルンスト・ライツあり、バート・クロイツナッハにシュナイダーあり、というようなものです。
中古カメラウィルス感染者にとっては、サンマは目黒に限るのと同様、フォクトレンダーはブラウンシュヴァイクに限る、シンガポール産、信州中野産ではもの足りぬ、ということになっています。

脱線しました。何の話だっけ?
あ、ウルトロンでしたね。ウルトロン。
ウルウルとトロけるような、甘美で柔らかな描写。
ウルトラトロピカルな抜けるようなコントラストと濃厚な発色。
ウルトロンで撮れば、腐って干涸らびたような被写体でもウルウルとみずみずしく、トロ~ンと艶やかな描写に‥‥、
「ウルトロン」という名前は、こうしたオノマトペを連想させ、こと日本においては得をしています。
「ズミクロン」、「ズミルックス」、「ズマリット」などというライツ製レンズの名前が硬質で生真面目な描写を思い起こさせるのとは逆ですね。

実際のところ、ウルトロンの描写はどうなのか?と問われれば、やはり「うるとろ~ん!」に尽きるといえます。
甘く柔らかで艶やか、みずみずしく生命力にあふれた写真が撮れる伝説のレンズ。
ウルトロンといえば、まぁたしかに銘玉中の銘玉です。
ゼプトン、ノクトンと並んで、フォクトレンダー神話を築き上げたレンズであり、レンズの格からいえば、ツァイス・プラナー、ライツ・ズミクロン、シュナイダー・クセノンあたりに匹敵します。
ウルトロン50mm/F2付のプロミネントヴィテッサなどのカメラは、今なお人気が高く、なかなか良い価格で取引されています。
プロミネントはとても欲しかったのですが、価格が良すぎて未だに買えずにいます。

前述のとおり、このカラーウルトロンはシンガポール製です。
星港、新加坡、昭南島などと記される南の島。
なぜ、そんな場所で作られたのか。

このレンズ、栄光のフォクトレンダーの歴史の中では、斜陽期~衰退期のレンズに当たります。
1960年代~1970年代のドイツでは、多くの古参カメラメーカーが、カメラの生産を止めたり、会社自体がなくなったりしました。
低価格高品質な日本製カメラの攻勢に負けたというのが一番大きな理由です。
200年以上の歴史を誇る名門フォクトレンダーも"Made in Japan"には勝てませんでした。

フォクトレンダーの黄金時代は1950年代です。
製品は素晴らしかったにもかかわらず、経営は大変だったようで、黄金時代の最中、1956年にはカール・ツァイス財団に経営権を売り渡しています。
1965年には、ツァイス・イコンとカルテルを結成し、「ツァイス・イコン・フォクトレンダー販売会社」を発足させています。
1969年、フォクトレンダーはツァイス・イコンに吸収合併されます。
1971年、そのツァイス・イコンは、一般用光学機器事業から撤退を決定。
1972年、伝統あるブラウンシュヴァイク工場は操業停止。フォクトレンダーの商標権は、ローライに譲渡移転されました。
そして1999年、コシナが商標使用権を得て、日本製フォクトレンダーが作られるようになりました。

このカラーウルトロンは1970年代中頃の製品ですから、ローライが商標権を持っていた時代のものです。
ローライというと、二眼レフで有名なメーカーですが、もともとはフォクトレンダーの社員であった2人の技術者、パウル・フランケとラインホルト・ハイデッケがスピンアウトして創業した会社です。
フォクトレンダーと同じく、本社はドイツ・ブラウンシュヴァイクにあります。

このカラーウルトロンは、ローライのシンガポール工場で生産されたもので、フォクトレンダー、ツァイス・イコン、ローライという複雑な血統が渾然一体となったレンズといえますが、最も濃く受け継いでいるのはフォクトレンダーの血脈のように思われます。
Color-Ultron 50mm F1.8には、同じくローライ・シンガポール工場製の"Carl Zeiss Planar 50mm F1.8 Made by Rollei"という双子の兄弟があります。
カラーウルトロンとは名前だけで実態はプラナーなのか?とも思えますが、プラナーの方がウルトロンであるという説もあります。
このあたりはよく分かりません。
ウルトロンとプラナーの基本構成は非常によく似ていますから。





1950年の初代ウルトロン50mm F2のエレメント構成図です。
オリジナルウルトロンは、レンジファインダー用レンズシャッターモデルでした。
5群6枚の変形ガウスタイプと呼ばれるエレメント構成は、シュナイダークロイツナッハ・クセノンの設計者としても知られる、A.W.トロニエ博士の手によるものです。
前群には比較的間隔を離した3枚のレンズを置き、後群に1組だけ貼り合わせレンズを使うというのがウルトロンの特徴のようです。
このエレメント構成、実はCanon EF50mm F1.4 USMに似ています。
EF50mm F1.4 USMの後玉1枚を取り外すと、ウルトロンそっくりになります。

1970年代のウルトロンでは、一眼レフの深いフランジバックに適合させるため、1枚の凹レンズを前群先頭に追加し、6群7枚となっています。
これが、通称「ヘコミウルトロン」と呼ばれる"Carl Zeiss Ultron 50mm F1.8"です。
Zeiss Ikon Voigtlander Icarex 35用のレンズで、M42マウントです。
前玉がえぐられたように凹んでいるルックスはなかなか印象的です。

私の手元にあるカラーウルトロンは、ヘコミウルトロンの後継モデルで、基本構成はウルトロンそのものですが、追加前玉は凹レンズではありません。
前玉は、曲率の非常に小さい凸レンズで、一見平面か凹レンズに見えます。
ウィーンから届いた小包を開いたときには、「おお、ヘコミウルトロン!」と勘違いしたほどです。
ヘコミウルトロンは、ebayでも相場が高く、状態の良いものは$300~$500ぐらいします。
描写には定評があり、くわえて前玉の凹レンズが特異なため、なかなか人気があるのです。

こりゃ、儲けた!出品者が間違えたのかな?と思いましたが、そんな美味い話がebayにあるわけがありません。
よくよく見てみれば、普通のカラーウルトロンでした。
落札価格から考えてありえない話でした。
カラーウルトロンは、ヘコミウルトロンに比べると格段に安く、$100前後で買えます。
QBMマウントのカラーウルトロンになるとさらに安く、ときどき$50以下で出品されているものを見かけます。

このレンズ、フォクトレンダーというブランドが無くなりかかっていた時代に作られたレンズですが、描写はすばらしく良いです。
さすがはウルトロン、国破れて山河あり、腐っても鯛であります。
会社は傾き、ローライ頼りになっていても、クォリティは落ちていません。
創業250年の名門フォクトレンダーの栄光をしっかりと感じさせてくれます。

シャープネス、発色、いずれも文句ないレベルです。
絞ってカリカリ、開いてウルトロ~ン。絞りのコントロール範囲は広いです。
コーティングは、ローライ名物の"Rollei-HFT (High Fidelity Transfer)"コーティングとは色が違うようですが、同じシンガポール工場によるものですから、同等のものと思われます。
コントラストはほとんど現代のレンズと変わらないレベルで、シャドウが眠いとかそういうことはまったくありません。
逆光性能もすばらしく、少々の逆光ではフレアは出ませんし、コントラスト低下も少ないです。

以下、作例です。
デジタル一眼レフ、EOS 30Dで撮ったものは、原則ノーレタッチです。
銀塩一眼レフ、Revueflex SD1で撮ったものは、最小限のレタッチを施しています。
私は"超ローコントラスト法"というレタッチ前提のフィルムスキャンをしているため、銀塩写真の場合、まったくノーレタッチというわけにはいかないのです。





Canon EOS 30D / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8 +PL
ISO200, Av -2.0EV, F5.6, 1/160sec., WB:Auto






Canon EOS 30D / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
ISO100, Av -0.7EV, F4, 1/200sec., WB:Auto






Canon EOS 30D / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
ISO100, Av -0.7EV, F5.6, 1/1250sec., WB:Auto






Canon EOS 30D / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
ISO100, Av -0.3EV, F4, 1/320sec., WB:Auto






REVUE Revueflex SD1 / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750






REVUE Revueflex SD1 / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750






REVUE Revueflex SD1 / Voigtländer Color-Ultron 50mm F1.8
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750



注意!
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Color-Ultron 50mm F1.8は、いわゆる「オート絞り専用」レンズで、後玉横のピンを押さない限り、絞り込まれません。
スーパータクマーのような、AUTO<=>MANUAL切換レバーはありませんし、東独製レンズのような絞り込みレバーもありません。
Bessaflex TMや、Pentax SP、Praktica MTL5などのM42マウント専用カメラで使うときは、問題なく使えますが、マウントアダプターを介して使うときには制限があります。
絞りピンを押さないタイプのマントアダプターでは、常時絞り開放となり、一段たりとも絞ることができません。
絞って使いたいときには、必ずピンを常時押しているタイプのマウントアダプターを使う必要があります。
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by xylocopal2 | 2006-10-27 23:26 | Hardware
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