Canon EOS 30D / Canon EF 35mm F2 ISO100, Av -1.0EV, F4.0, 1/160sec., WB:5500K 樹間からこぼれる秋の光を浴びてくつろぐ、Super-Takumar 50mm F1.4。 1964年、東京オリンピックの年に製造された旭光学製レンズです。 現代の"SMC PENTAX FA50mm F1.4"の遠い御先祖様にあたり、もうとっくに製品寿命を終え、日当たりの良い縁側で、猫を相手に番茶をすすり、日向ぼっこなどをしているのが似合うレンズです。 しかし、基本設計は優秀で、今なお、ちゃんとした写真を撮るのに不足ない品質を維持しています。 Pentax SPでなくとも、カメラに付けてやれば、にわかに背筋がシャンとして、昔取った杵柄を発揮してくれます。 このレンズ、Xylocopal's Photolog 2006/09/29 "とってもアレゲな Super Takumar 50mm F1.4"でレポートしたとおり、中古カメラ市のジャンク箱から救出してきたレンズです。 レポートの中で、放射能レンズらしい、と書きましたが、どうやら放射能レンズではなさそうです。 ある親切な方から指摘を受け、調べてみたのですが、Super-Takumar 50mm F1.4の中でも、"Model I"と呼ばれる初期型で、トリウムガラスを使っていない、つまり放射線を出さないタイプらしいのです。 放射能タクマーと呼ばれるレンズの多くが、真っ黄色にガラスが変色しているのに対し、このレンズはほとんど黄色くありません。 レンズを乳白色アクリル板の上に置き、後から透過光を当て調べてみました。 左は現代のレンズ、Canon EF50mm F1.4 USM。 右がくだんのSuper-Takumar 50mm F1.4。 Canon EF50mm F1.4 USMは、カタログやウェブサイト上で、「カラーバランスはISO推奨値とほぼ一致」を謳っていますから、まずは標準的なガラス色のはずです。 それに比べて、私が救出したSuper-Takumar 50mm F1.4が特に黄色いということはありません。 この時代の放射能焼けしたレンズは、ほんのり黄色いというレベルではなく、蜜柑色、麦茶色といってよいほどの黄変を見せます。 カラーバランスは元より、露出値も半絞りぐらい変わりそうな濃いオレンジ色をしているものが多いのです。 もし、Model IIと呼ばれる後期タイプのSuper-Takumar 50mm F1.4であれば、酸化トリウム含有の放射能レンズですから、程度の違いこそあれ、こうした比較をすれば分かるはずです。 しかるに、私が救出してきたタクマーは、ほとんど黄色くありません。 おそらく、Model Iと呼ばれる初期型なのでしょう。 Super-Takumar 50mm F1.4 Model Iの最大の特徴は、エレメント構成が6群8枚であり、6群7枚のModel IIより1枚レンズが多い8枚玉構成になっていることです。 8枚玉というと、Leica Summicron M 35mm F2を思い起こしますが、スーパータクマーにも同様な8枚玉伝説があるようです。 ダブルガウス型レンズの標準的エレメント数は6枚ですから、たしかに贅沢な作りではあります。 写真用レンズの場合、必ずしもエレメント数が多い方がいいというわけではなく、むしろ少ない方がヌケが良くコントラストが高いレンズになる場合が多々あります。 貼り合わせ面が少ない方が、バルサム剥がれなどのトラブルが少ないでしょうし、また、レンズ製造コストを下げるためにも、エレメント枚数は少ない方が有利です。 とはいえ、レンズ設計が古く、硝材調達に不自由した昔のレンズでは、どうしてもエレメント構成が増えてしまうということがありました。 標準構成よりエレメント数が多いレンズは、たいていの場合、設計が古いレンズです。 現代であれば、非球面レンズやエキゾチック硝材を組み合わせることで、はるかに少ないエレメント数で同等性能のレンズを作ることができるのだろうと思います。 Model IとModel IIの鑑別方法は、NGCさんのウェブサイト、"The PENTAX Lenses Study Group"の"Super TAKUMAR 1:1.4/50mm [Model I]"に分かりやすく記されています。 それによると、第一の識別ポイントは、レンズ前に刻まれた文言の記載順序だそうです。 比較用のスーパータクマー Model IIを持っていないので、代役のSMCタクマー55mm F1.8を隣に並べてみました。 私が高校生時代に買ったワンオーナーものですが、見た目はジャンクなスーパータクマーより汚いです。^^ 並べてみると、コーティングの違いが目立ちます。 アポロ計画のヘルメットバイザーのような黄金色コーティングがスーパータクマー。 深いマゼンタ色コーティングがSMC。 明らかに、SMCの方が透明度が高く、不要な反射がありません。 なるほと、Super Multi Coatingという名前は伊達ではないな、と実感します。 肝心の文言並び順ですが、右は、Super-Takumar 1:1.4/50 Asahi Opt. Co., Lens made in Japan シリアルナンバーの順。 これが初期型、Model Iの並び方だそうです。 シリアルナンバーはレンズ名の前に来ます。 一方、Model IIの場合は、左のSMC Takumar 55mm F1.8と同様、レンズ名の後にシリアルナンバーが来るようです。 実物のModel IIの写真はこちら。 第二の識別ポイントは、絞りリングのフォントスタイルの違いだそうです。 特に"6"の文字に違いが顕著で、F16、F5.6を見れば差違がよく分かります。 Model Iといわれるものが丸みを帯びているのに対し、Model II以降のものは角張っています。 よく見ると、"4"の文字も違っていますね。 第三の識別ポイントは重量です。 Model Iが245g、Model IIが230g。 15gほどModel Iの方が重いのだそうです。 さっそく、デジタルキッチンスケールで測ってみたところ、手持ちのタクマーは244g。 間違いなく、初期型のModel Iのようです。 8枚玉だから嬉しいか?と問われれば、よく分かりません。 Model IIを使ったことがないので、その違いが分からないのです。 激レアというほど珍しいレンズではなさそうですし、ズミクロン35mm/F2の8枚玉ほど高価なレンズではないので、儲けた!という気分はどうにも薄いです。 しかし、8枚玉か7枚玉かを抜きにしても、このスーパータクマーはよく写ります。 コーティングがSMCではないので、逆光には弱く、すぐにフレアが出てしまいますが、順光~半逆光での描写はなかなか捨てたものではありません。 正統派の落ち着いた描写をします。 以下、作例です。 まずは銀塩から。 Voigtländer Bessaflex TM / Asahi Opt. Co., Super-Takumar 50mm F1.4 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 半逆光での作例。 これぐらいの逆光であれば、特に問題はないようです。 コントラストが低いのは、フレアのせいというよりは、元々コントラストが強く出るレンズではないためと思われます。 絞りは、F2.8 or F4です。 Voigtländer Bessaflex TM / Asahi Opt. Co., Super-Takumar 50mm F1.4 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 これも半逆光です。 一応フードを付けていますから、分かるほどのフレアは出ません。 絞りは、F4 or F5.6。 どっちだったか忘れてしまうのは、私の脳がアルツ気味だからです。 二線ボケの大量生産になりがちな背景ですが、何とか踏みとどまっています。 Canon EOS 30D / Asahi Opt. Co., Super-Takumar 50mm F1.4 ISO100, Av -0.3EV, F4.0, 1/1000sec., WB:5200K ここからはデジタルです。 順光での撮影。順光ってのは、あまり面白いものじゃないですね。 絞りはF4。 マウントアダプターを付けると、Exifに絞り値が残りませんが、シャッタースピードは残るので、撮影感度が分かっていれば推察できます。 F2.8で撮っていれば、1/2000sec.になるはずです。 最短撮影距離45cmでのショットです。F4でもボケボケ。^^ Canon EOS 30D / Asahi Opt. Co., Super-Takumar 50mm F1.4 ISO100, Av -0.7EV, F4.0, 1/1000sec., WB:5200K こちらは半逆光。 渋い発色です。 色が悪いわけではなく、落ち着いたトーンで好みです。 おそらく、現代のレンズだと、もう少し彩度が上がるのではないでしょうか。 デジタルで撮っても、特にコントラストが上がることはないです。 ワビサビを追求する写真には向いています。
by xylocopal2
| 2006-10-18 21:34
| Hardware
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