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2006年 10月 05日 縞々ゼブラなパンコラー




縞々ゼブラなM42スクリューマウントレンズが3本になりました。
右から、

 Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8
 Carl Zeiss Jena Tessar 50mm F2.8
 Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8 + VEB Pentacon Praktica PLC3

縞々ゼブラは東独ツァイスの専売特許なのか?と早とちりしないように。
1950~60年代には、こんなレンズデザインが流行ったのです。

特に多いのが、ドイツ製レンズ。
東独のみならず、西ドイツにも非常に多くの縞々ゼブラがあります。
社会体制の枠を超えて、東西ドイツ人は縞々ゼブラをこよなく愛したようです。
ゲルマン民族にとって縞々ゼブラとは、何か特別な意味を持つシンボルなのかもしれません。






Carl Zeiss Jena electric MC Pancolar 1.8/50。
日本語表記では、カール・ツァイス・イエナ パンコラー MC エレクトリック 50mm F1.8。
東独イエナ市のツァイスで製造された、5群6枚のダブルガウス型レンズです。
西側でいえば、プラナーに相当するのでしょうか。
Pentacon Super用の55mm/F1.4や、廉価版の50mm/F2、中望遠の80mm/F1.8、75mm/F1.4などもあります。

コーティングはアンバー系が強く写っていますが、角度を変えればマゼンタ系もはっきりと分かります。
単層コーティングではなくマルチコーティングですね。
レンズ名にも赤々と"MC"の文字が謳われています。
東独製モノコートレンズの水色~薄菫色系コーティングは繊細な印象を受けますが、マルチコートタイプはより力強い印象を受けます。

このレンズ、鏡胴は縞々ゼブラで光学系はMCという、実に私向きの個体です。
羊の皮をかぶった狼、といったところでしょうか。
縞々ゼブラかつマルチコーティングなレンズは、実はあまり見たことがありません。
モノコートからMCタイプへの移行期の製品なのでしょう。

当時の東独製標準レンズは最短撮影距離が短いのが特徴ですが、このパンコラーも35cmまで寄ることができます。
寄れる50mmというのは滅法便利で、一度使うと病み付きになります。
クローズアップが撮れるという以外に、被写界深度を浅くしたボケの美しい写真が撮りやすいという理由もあります。

パンコラーはパンカラーと呼ばれることもあります。
日本語表記は確定していないようです。
表記が揺れる原因はスペルにあります。

 Pancolar

PancolorでもPancolourでもなく、Pancolar。
Googleで検索をかけると、間違えて覚えた人が多いことが分かります。
ドイツでは何と発音されているのでしょうか。
パンコラー?パンコラール?
パンコラーがドイツ人の発音に近いという説がありますが、よく分かりません。
ドイツ人でも、ザクセン出身者とバイエルン出身者では発音が全然違うといいますし。
ややこしいので、表記はパンコラーで統一しておきます。


レンズ名の"electric"が意味するところは電気接点です。
断じて電子接点などという高級なものではありません。
レンズ内部にLSIなどの集積回路は入っているべくもなく、抵抗とコンデンサ程度しか入っていないと思われます。

レンズマウント基部には、真鍮色をしたゴツくさい接点が3つ並んでいます。
現代のAF用Kマウントに似た配置ですが、それに比べると接点の数が少ない上、間隔がいやに間延びしています。
この接点にはバネが仕組まれており、常に一定の圧力で接点に接するようになっています。
これら接点がボディ側に伝達するのは、開放F値、現在の絞り値だけと思われます。"electric"といっても、AEでもAFでもなく、「開放測光」のためだけの電気接点なのです。

「開放測光」という言葉、現代では当たり前すぎて、ほとんど死語同然になっています。
というのも、銀塩/デジタルを問わず、現代の一眼レフは原則開放測光になっているからです。
「絞込測光」、つまり露出を測るときに絞りを絞り、ファインダーが暗くなる一眼レフというのは、Voigtländer Bessaflex TMの生産中止が決まった今、現行機種には存在しないはずです。

一昔前の一眼レフは露出を測るのに、いちいち撮影時の絞りまで絞り込んで測光する必要がありました。
そんな原始的な技術でも、レンズを通ってきた光そのものの明るさを測る、TTL="Through the Lens"ということで画期的な測光方法だったのです。
何しろ当時は、一眼レフのくせにセレン光電池をペンタプリズムに貼り付けた外部測光カメラがいくらでもあったのですから。

初期のTTLは撮影時の絞りに絞り込んで測光をする実絞り測光、絞込測光でした。
TTLは画期的な測光方式ですが、人間というものは実に横着なもので、絞らずに、絞り開放のままで露出が測れないか?と考えはじめます。
いちいち絞るのは面倒だし、ファインダーが暗くなってピントが合わせにくい、シャッターチャンスを逃がす、ということからでしょう。
やがて、そうした要望に応えるべく、常に明るいファインダーで、絞り開放のまま測光する技術が生まれました。
これを開放測光と呼びます。

開放測光は一種の光量シミュレーション技術です。
開放F値2のレンズで、1/2000sec.のシャッター速度になる明るさだとします。
その光量時に、仮にF8で撮るとすれば、いかなるシャッター速度が適正か?
これを求めるだけの単純な技術です。
下の数値のうち、F8を見ればいいわけですから、1/125sec.ですね。

 F2=1/2000sec.
 F2.8=1/1000sec.
 F4=1/500sec.
 F5.6=1/250sec.
 F8=1/125sec.
 F11=1/60sec.
 F16=1/30sec.

これを、電子的にというよりは、機械的電気的に弾き出すようにしたのが当時の開放測光露出計です。
現在の光量、現在付いているレンズの開放F値、現在設定した絞り値が分かれば計算できます。
そのため、開放測光対応の一眼レフでは、必ず開放F値/絞り値をボディ側に伝えるための機構が付加されています。
ペンタックスはマウント内周のツメで、フジカSTシリーズはマウント外周のツメで、そしてプラクチカは電気接点で絞り情報を伝えたのです。






プラクチカLシリーズの開放測光対応ボディには、マウント基部に扇形をした電極が設けられています。
角度は20度ぐらいあるでしょうか。
接点が間延している理由はここにあります。
スクリューマウントというのは、何しろただのネジですから、止まる位置がけっこうバラつきます。
そのアバウトさに対応するために、点を線で迎え撃つという作戦に出たのがこの扇形電極なのです。

プラクチカで開放測光をしようと考えるのなら、レンズ/ボディ双方が電気接点対応である必要があります。
Carl Zeiss Jenaエレクトリックレンズの純正ボディというのは、実はプラクチカ電気接点モデルのことです。
このPraktica PLC3をはじめ、Praktica VLC2Praktica LLCあたりが、こうした電気接点付マウントを装備しています。
ペンタコン製レンズでは、Pentcon electric 29mm F2.8Pentacon electric 50mm F1.8 MCPentacon electric 135mm F2.8 MCなどといったものが開放測光対応のエレクトリックレンズです。


Praktica PLC3は、ほとんど開放測光エレクトリックレンズ専用といってもいいぐらいのカメラです。
巻戻クランク基部のスイッチを切り替えれば、絞り込み測光でも使えるのですが、非常に使いにくいです。
 (●=開放測光モード、○=絞込測光モード)

何故使いにくいのかといえば、ボディ側に絞り込みレバーが存在しないからです。
たいていのプラクチカには、シャッターレリーズボタン左上に黒い絞り込みレバーがありますが、PLC3にはありません。
仕方がないので、レンズ側で絞り込むことになりますが、ペンタコン製やツァイス・イエナ製以外のM42マウントレンズは絞り込みがやっかいなものが多いです。
旭光学(ペンタックス)製やヤシカ製レンズの場合は、M-A切換レバーをManual側にして測光します。
フォクトレンダー製やフジカ製レンズの場合は、絞り込み測光が使えません。

電機接点付プラクチカでは、なぜボディ側絞込レバーを廃したのかは謎です。
測光切換スイッチが付いているのだから、残しておいても問題はなかろうと思うのですが。
このあたり、組織が硬直していたのかなぁなどと思います。
外貨を稼ぐために、電気接点付レンズ優先の設計にしたのか?とも思えますが、ちょっと分かったユーザは買わないでしょう。

とまれ、プラクチカをM42レンズの母艦に使おうと考えているのなら、電機接点なしの絞り込みレバーがあるタイプの方が断然いいです。
使えるレンズの範囲が広がります。
プラクチカPLC3あたりは、もっとも汎用性のないボディです。
色々なM42マウントレンズを使って遊んでみたいという目的には合いません。
よほど物好きなら、あえて止めはしませんが。
色々なM42マウントボディを使ってみたいという人もいるでしょうから。^^

Pentacon Praktica PLC3が欲しいという奇特な人はまずいないと思いますが、もう一点用心した方がいいことを書いておきます。
露出計用バッテリーが非常に特殊です。
まず、日本では手に入りません。
それどころか、ドイツでも入手しにくいようです。

VARTA V21 PXというバッテリーなんですが、単3乾電池を太くしたような形をしています。
これで1.5Vなら、単3乾電池をぶちこむところですが、あいにくと4.5Vであり、単3乾電池を流用することはできません。
通販先をリンクしておきましたが、こんなものが1個9.5ポンド=約2000円もします。
やってられないとはこのことです。

私は一子相伝の秘術・中村式体感露出法を授けられていますから、屋外ネガ撮影であれば特に露出計を必要としません。
しかし、せっかくの開放測光カメラ、露出計が動かなければ買う意味がありません。
このPLC3、スロバキアの優良セラーCupogカメラ商会の出品物だったのですが、説明文にはこんなことが記されていました。

 「御存知のとおり、V21PXは現在ほとんど売られていない。
 実は、ハンドメイドだがバッテリーアダプターがある。
 市販のLR44などのアルカリボタン電池3個で代用できるようにしたものだ。
 欲しかったらコンタクトしてちょうだいね。」

さっそく、Cupog氏にメールしたら、$10だといわれました。
いかにもテキトーに付けたような値段です。
あまり売れていないんでしょうね。定価がない雰囲気です。

ハンドメイドのバッテリーアダプタ?
紙を巻いたものにボルトナットを組み合わせたものなのかなあ。
それにしては、ちと高くないか?
とは思いましたが、好奇心に負け、PLC3と一緒に頼んでみました。





届いたのがこれです。
ポリプロピレン円柱を切削加工したものと思われ、工作精度は非常に高いです。
電極も真鍮製のしっかりしたもの。ボルトを流用したものではありません。
紙を巻いたどころか、ハンドメイドの域をはるかに超えた、プロによる立派な工業製品です。
こりゃあ、$10は安い。
関東カメラサービス製水銀電池アダプターと同等以上のできばえで、価格は1/3です。
第一、関東カメラサービスでは、V21PXアダプタは売ってません。

このアダプタ、1.5Vのアルカリボタン電池(LR44、G13 etc.)が3個入るようになっています。
直列3個ですから、4.5Vピッタリですね。
しかし、容量は同じにはなりません。
VARTA V21PXは600mAhの容量があります。
しかるに、LR44は公称120mAhです。直列ですから3個でも120mAh。
本来の1/5の時間で使えなくなるわけです。
LR44は非常に安いですからあまり問題はないとはいえますが。
このバッテリー持続期間の問題については、Cupog氏の説明文にもちゃんと書かれています。

それにしても、スロバキアという国は、イギリス同様アンダーステートメントが美徳とされる国なのでしょうか。
これが、オーバーステートメントが常識の某国であれば、「素晴らしい品質のバッテリーアダプタ!未開封新品!激安!超お買い得!」と称して、こういうものを送ってきそうです。
ebayには両種類のセラーがいます。
初心者はえてして声の大きな方に惹かれがちですから注意してくださいね。
迷ったら、Cupogカメラ商会がいいですよ。
少々高目で、東欧系、旧ソ連系のカメラ/レンズしかありませんが、送られてくる商品の質は確かです。
これまで、さんざんスロバキア経済に貢献してきた私が言うのだからホントです。たぶん。

ただ、東欧系、旧ソ連系のカメラは、いかに"Mint Condition"であっても、元がアレゲなので、"Made in Japan"と同じ品質を期待するのはやめた方がいいです。
旧COMECON諸国のカメラを買ってみると、なぜ日本製カメラが馬鹿売れしたのかが痛いほどよく分かります。
1960年代の"Made in Japan"という刻印は、"High Quality, High Reliability"という文言とイコールです。
一方、"Made in DDR"、"Made in USSR"はというと‥‥(以下略。
これまで、さんざん旧東欧製/旧ソ連製カメラに泣かされ続けてきた私が言うのだからホントです。たぶん。

現に、このプラクチカPLC3は、私にとって3台目のプラクチカですが、初めての完動品でもあります。
何も問題がないプラクチカをゲットするのに、これだけかかったのです。
運が悪いともいえますが、今までの経験からいえば特に驚くようなこととも思えません。
なのに、なぜ性懲りもなく買い続けるのか?
それはもう「中古カメラウィルスに脳を冒された救いようのない馬鹿だから」としか答えようがありません。^^

与太話ばかり書いていると、お客さん帰ってしまいそうなので、パンコラーの実写例も載せておきます。
EOS30Dで撮ったものですから、レンズ性能の一番美味しい部分だけを使っています。
周辺まで見たい方は、銀塩フィルムでの作例を見てください。





Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8
ISO100, Av -0.3EV, F4.0, 1/320sec., WB:Auto

ボケが綺麗といわれるレンズですが、実はシャープネスもなかなかのものです。
EOS30Dの頼りない、スヌケに近いマット面でも、合焦ポイントが確実に分かります。
MFレンズをAFカメラで使うと、フォーカシングが合わせづらいのですが、ピントの山が先鋭なレンズの場合はかなり楽になります。
これが、Auto Yashinon-DX 50mm F1.7あたりのユルいレンズだと、さっぱり分からないのですが。
そうした意味で、デジタル一眼レフでは使いやすいレンズだと思います。





Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8
ISO100, Av -0.7EV, F5.6, 1/1250sec., WB:Auto

晴天下F5.6ですから、いかにボケ玉でもシャープに写るシチュエーションです。
歪曲収差は少ない方だと思います。
同じ東独製M42ダブルガウスタイプレンズでも、Pentacon auto 50mm F1.8は、もう少し樽型歪曲が目立ちます。
メタリックなものの質感表現、階調表現はまずまずです。
被写体がハーフメタリックなので、イマイチ判然としませんが。





Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8
ISO100, Av -0.7EV, F8.0, 1/320sec., WB:Auto

コントラストは現代のレンズに並ぶレベルじゃないでしょうか。
まるで、西ドイツ製テッサーのようです。
テッサーよりは軟調で、シャドウが潰れずに残っているのはいいですね。
縞々ゼブラの古くさいレンズにしては上出来です。





Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8
ISO400, Av -0.7EV, F4.0, 1/80sec., WB:Auto

最近接35cmでの撮影です。
なぜ、距離が分かるかというと、35cmまでヘリコイドを繰り出して、額でフォーカスを合わせているからです。
近接時のボケは少し汚いですが、マクロレンズではないので仕方がないですね。
APS-Cデジタル一眼レフに付けると、35cmまで寄れる80mm単焦点レンズとなり、なかなか使い勝手がいいです。





Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena MC electric Pancolar 50mm F1.8
ISO400, Av -0.3EV, F4.0, 1/125sec., WB:Auto

名古屋名物台湾ラーメンです。
故郷イエナを遠く離れた極東の地で、見たこともないケッタイなものを撮らされる気の毒なパンコラーです。
ソーセージやプレッツェルは撮り慣れていても、こうしたミョウチクリンなものを撮るのはおそらく初めてのことでしょう。
初めてにしては、なかなか美味そうに撮れている、と思うのは私だけでしょうか。
食べ物が美味しそうに撮れるレンズは良いレンズ、ということでいいんじゃないかと思います。^^

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その他作例
 Xylocopal's Photolog : 収穫の秋(南瓜)
  http://xylocopal2.exblog.jp/9638147/

 Xylocopal's Photolog : 桜山雨情
  http://xylocopal2.exblog.jp/4865646/
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by xylocopal2 | 2006-10-05 13:03 | Hardware
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