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2006年 08月 30日 レチナとお散歩



Canon EOS 30D / Canon EF 35mm F2
ISO400, Av -1.3EV, F4.0, 1/125sec., WB:Auto


テーブル右端に乗っている小さなカメラは、レチナといいます。
正式名は、Kodak Retina I Type 010。西ドイツ製です。
1947年製ですから、来年には還暦を迎えます。

レチナは、ライカなどに比べると安価な上、折りたたみ式の可愛らしい姿から、「お気楽カメラ」、「お散歩カメラ」として認識されているフシがあります。
よく、雑誌の記事などに、「レチナを連れて散歩に行こう」などと調子の良いことが記されており、いかにも簡単お気楽に使えそうなイメージを受けますが、あまり真に受けない方がいいです。

まず、レチナは重いです。
このType 010の場合、重さは500gを超え、レンズなしのデジタル一眼レフに匹敵します。
そんな重量が、タバコサイズに詰まっているわけですから、比重は非常に高く、持つとズッシリとした手応えを感じます。
ミニ漬け物石といった質量のカメラでありながら、Type 010あたりまでのレチナには、ストラップを取り付けるアイレットがありません。
肩にかけることも、首から下げることもできず、カバンに突っ込むか、手に握りしめていくしかありません。
よく、「レチナをズボンのポケットに突っ込んで~」というくだりを見かけることがありますが、作業服ならともかく、ヤワなズボンだとポケットが破れます。

くわえて、レチナは原始的です。
レチナでも、1950年代後半のRetina IIIあたりになると、レンジファインダーカメラとして何一つ不自由することはないのですが、Type 010あたりのコンベンショナルレチナだと、あれこれ不自由します。

まず、レチナI型には距離計がありません。
二重像合致式 or 上下像合致式のレンジファインダーというものがなく、ファインダーはただのスヌケの筒です。
距離をどうやって測るか?といえば、普通は目測です。
ゾーンフォーカスカメラと同じですが、違うのはゾーンマークやクリックストップがなく、1mぐらいから無限遠までシームレスに回ってしまうことです。
被写界深度自体もゾーンフォーカスカメラに比べれば浅いです。

この手の目測カメラを使うときは、「被写体まで3mよーそろ!、いや間違えた、2m50cmよーそろ!」てなことを脳内でやるわけです。
たぶん、これぐらいの距離だろうと見当を付けたら、レンズの周囲に付いている距離環をグリグリと回して、距離を合わせます。
単体距離計、巻尺などを使えば、より正確でしょうが、この手のカメラでそこまでやるのもなぁ、という気分にもなります。

面倒くさいことに、私のType 010レチナは、距離環がfeet表示です。
ドイツ国内向け、ヨーロッパ向けのレチナはメートル表示になっていますが、当時、最大顧客であった英米はヤードポンド法の国ですからfeet表示になっているレチナは多いです。
そのため、脳内で、「2m50cmつーことは、30cmで割って、大体8feet!」という計算をする必要があります。
こんな単純な計算でも間違えることはあります。
人間の思いこみってのは怖いものですよ。





Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750


距離を合わせたら、露出を決めます。
あ、順番が逆ですね。
普通は、露出を先に決めてから、距離合わせです。

何しろ、フルマニュアル、フルメカニカルの安カメラですから、露出計は付いていません。
単体露出計や、携行している他のカメラで測れば露出は分かりますが、私の場合、普通は体感露出です。
晴天日向、ISO100のフィルムであれば、F8、1/250sec.、日陰なら、F5.6、1/125sec.って奴です。
体感露出といっても、特殊な感覚器官を鍛えるわけではなく、状況に応じた露出を記憶するだけです。

日向はあまり考える必要はありませんが、日陰は考えます。
明るい日陰から、少し暗い日陰、だいぶ暗い日陰、色々ありますから。
さらに、日陰、日向混在なんてシーンもあります。
そうしたときに迷ったら、ネガフィルムの場合は、オーバー目にしておけばいいです。
F4、1/125sec. or F4、1/60sec.、どっちだ?と思ったら、1/60sec.を切っておけばいいです。
ネガフィルムってのは、アンダーは粒子が目立つ汚い写真になりますが、オーバーは2段ぐらい狂っていても、ほとんど分からない仕上がりになります。





Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750


露出を決めたら、シャッターダイヤルをセットします。
ところが、Type 010あたりまでのレチナは、シャッタースピード体系が現代とは少し違います。
1/60sec.もなければ、1/125sec.もありません。
1/25sec.、1/50sec.、1/100sec.という倍数体系になっているのです。
このあたりは、深く追求しても意味はないですから、1/60sec.=1/50sec.、1/125sec.=1/100sec.と丸めてしまって無問題です。

絞りは、大体現代のものと同じようなものが付いていますが、クリックストップはなく、無段階に変化します。
F5.6ちょい開け、F8ちょい絞り、なんてことが簡単にできます。
一眼レフではないので、絞りは最初から絞りっぱなしです。





Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750


儀式はまだ終わりません。
シャッタースピード、絞りをセットしたら、シャッターをチャージします。
チャージというのは、シャッターを動かすバネをセットすることです。

現代のマニュアルカメラでは、フィルムを巻き上げるときに、シャッターチャージも同時に行う、セルフコッキングという方式になっていますが、この時代のカメラは、フィルム巻上とシャッターチャージが連動していません。
フィルム巻上とシャッターチャージは別々に行う必要があります。

この手のレンズシャッターは、チャージレバーをセットした後にシャッタースピードを変えると壊れる、という都市伝説がまことしやかに伝えられています。
実際には、チャージ後でも速度を変更できるのですが、その際に、いかにも壊れそうな嫌な音を出します。
そんなわけで、私は、いったんチャージしたら、何があろうとシャッタースピードは変更しません。





Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750


このType 010の場合、フィルム巻き上げは二重露出防止装置が付いているので、かなり無造作に巻き上げてしまいますが、これより古いタイプのレチナはそうはいきません。
フィルム巻上一回に対して、シャッターレリーズ一回が、(多重露出ではない)普通の撮影のパターンだと思います。
ところが、戦前のレチナは二重露出防止装置が付いておらず、一回の巻き上げに対して何回でもシャッターが切れてしまうのです。
うっかりしていると、二重露出、三重露出は簡単にできてしまいます。

この手の古いカメラでは、フィルムをいつ巻き上げるか?はきちんと統一しておかなければなりません。
シャッターを切ったら即巻き上げ、あるいは撮る直前に巻き上げ、どちらかに統一しておかないと、二重露出写真を量産してしまいます。
巻いたかどうか不安だったら、とりあえず巻き上げておけ、というのが一番いいです。
一齣無駄にするかもしれませんが、二重露出してしまうよりはマシです。





Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5
Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750


すべての儀式を終えたら、ファインダーを覗いてフレーミングします。
Type 010あたりのレチナでは、厳密なフレーミングは至難の業です。
覗いてもさっぱりよく見えません。
まるで、鍵穴から覗いているような感覚です。
どこまでフレームに入って、どこからアウトか?という境界が実にファジーです。

というわけで、「レチナを連れて散歩」というのが、いかに綺麗ごとか分かるかと思います。
「レチナとお散歩」というと、お気楽で脳天気なイメージですが、実際のところは、「レチナと七転八倒」、「レチナと修行」、「レチナと勝負」に近くなります。^^
レチナは軟派な外観とは裏腹に、たいへん硬派なカメラです。
硬派だけに、ばっちり決まると素晴らしい写真が撮れます。
もし、もっとレチナのことを知りたい、という物好きな人がいたら、下記を覗いてみてください。

 Jewels of Nostalgia / Lovely 35mm Folding Cameras
  http://www.wa.commufa.jp/~xylocopa/cc/

Type 010あたりの距離計なしレチナは人気がないので高くありません。
だいたい、1万円~2万円ぐらい。
1万円以下で入手できる場合も多いようです。
LOMO LC-A、SMENA-8Mに比べれば、格段によく写ります。
フィルムを何本か無駄にしていくうちに、写真の腕が上がるかどうかは謎ですが、カメラのことが原理から理解できるようになるのはたしかです。
インテリアとしても美しいですし、愛玩用としてもかわいいですから、おひとついかがですか。^^
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by xylocopal2 | 2006-08-30 23:20 | Hardware
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