Canon EOS 30D / Canon EF 35mm F2 ISO400, Av -1.3EV, F4.0, 1/125sec., WB:Auto テーブル右端に乗っている小さなカメラは、レチナといいます。 正式名は、Kodak Retina I Type 010。西ドイツ製です。 1947年製ですから、来年には還暦を迎えます。 レチナは、ライカなどに比べると安価な上、折りたたみ式の可愛らしい姿から、「お気楽カメラ」、「お散歩カメラ」として認識されているフシがあります。 よく、雑誌の記事などに、「レチナを連れて散歩に行こう」などと調子の良いことが記されており、いかにも簡単お気楽に使えそうなイメージを受けますが、あまり真に受けない方がいいです。 まず、レチナは重いです。 このType 010の場合、重さは500gを超え、レンズなしのデジタル一眼レフに匹敵します。 そんな重量が、タバコサイズに詰まっているわけですから、比重は非常に高く、持つとズッシリとした手応えを感じます。 ミニ漬け物石といった質量のカメラでありながら、Type 010あたりまでのレチナには、ストラップを取り付けるアイレットがありません。 肩にかけることも、首から下げることもできず、カバンに突っ込むか、手に握りしめていくしかありません。 よく、「レチナをズボンのポケットに突っ込んで~」というくだりを見かけることがありますが、作業服ならともかく、ヤワなズボンだとポケットが破れます。 くわえて、レチナは原始的です。 レチナでも、1950年代後半のRetina IIIあたりになると、レンジファインダーカメラとして何一つ不自由することはないのですが、Type 010あたりのコンベンショナルレチナだと、あれこれ不自由します。 まず、レチナI型には距離計がありません。 二重像合致式 or 上下像合致式のレンジファインダーというものがなく、ファインダーはただのスヌケの筒です。 距離をどうやって測るか?といえば、普通は目測です。 ゾーンフォーカスカメラと同じですが、違うのはゾーンマークやクリックストップがなく、1mぐらいから無限遠までシームレスに回ってしまうことです。 被写界深度自体もゾーンフォーカスカメラに比べれば浅いです。 この手の目測カメラを使うときは、「被写体まで3mよーそろ!、いや間違えた、2m50cmよーそろ!」てなことを脳内でやるわけです。 たぶん、これぐらいの距離だろうと見当を付けたら、レンズの周囲に付いている距離環をグリグリと回して、距離を合わせます。 単体距離計、巻尺などを使えば、より正確でしょうが、この手のカメラでそこまでやるのもなぁ、という気分にもなります。 面倒くさいことに、私のType 010レチナは、距離環がfeet表示です。 ドイツ国内向け、ヨーロッパ向けのレチナはメートル表示になっていますが、当時、最大顧客であった英米はヤードポンド法の国ですからfeet表示になっているレチナは多いです。 そのため、脳内で、「2m50cmつーことは、30cmで割って、大体8feet!」という計算をする必要があります。 こんな単純な計算でも間違えることはあります。 人間の思いこみってのは怖いものですよ。 Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 距離を合わせたら、露出を決めます。 あ、順番が逆ですね。 普通は、露出を先に決めてから、距離合わせです。 何しろ、フルマニュアル、フルメカニカルの安カメラですから、露出計は付いていません。 単体露出計や、携行している他のカメラで測れば露出は分かりますが、私の場合、普通は体感露出です。 晴天日向、ISO100のフィルムであれば、F8、1/250sec.、日陰なら、F5.6、1/125sec.って奴です。 体感露出といっても、特殊な感覚器官を鍛えるわけではなく、状況に応じた露出を記憶するだけです。 日向はあまり考える必要はありませんが、日陰は考えます。 明るい日陰から、少し暗い日陰、だいぶ暗い日陰、色々ありますから。 さらに、日陰、日向混在なんてシーンもあります。 そうしたときに迷ったら、ネガフィルムの場合は、オーバー目にしておけばいいです。 F4、1/125sec. or F4、1/60sec.、どっちだ?と思ったら、1/60sec.を切っておけばいいです。 ネガフィルムってのは、アンダーは粒子が目立つ汚い写真になりますが、オーバーは2段ぐらい狂っていても、ほとんど分からない仕上がりになります。 Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 露出を決めたら、シャッターダイヤルをセットします。 ところが、Type 010あたりまでのレチナは、シャッタースピード体系が現代とは少し違います。 1/60sec.もなければ、1/125sec.もありません。 1/25sec.、1/50sec.、1/100sec.という倍数体系になっているのです。 このあたりは、深く追求しても意味はないですから、1/60sec.=1/50sec.、1/125sec.=1/100sec.と丸めてしまって無問題です。 絞りは、大体現代のものと同じようなものが付いていますが、クリックストップはなく、無段階に変化します。 F5.6ちょい開け、F8ちょい絞り、なんてことが簡単にできます。 一眼レフではないので、絞りは最初から絞りっぱなしです。 Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 儀式はまだ終わりません。 シャッタースピード、絞りをセットしたら、シャッターをチャージします。 チャージというのは、シャッターを動かすバネをセットすることです。 現代のマニュアルカメラでは、フィルムを巻き上げるときに、シャッターチャージも同時に行う、セルフコッキングという方式になっていますが、この時代のカメラは、フィルム巻上とシャッターチャージが連動していません。 フィルム巻上とシャッターチャージは別々に行う必要があります。 この手のレンズシャッターは、チャージレバーをセットした後にシャッタースピードを変えると壊れる、という都市伝説がまことしやかに伝えられています。 実際には、チャージ後でも速度を変更できるのですが、その際に、いかにも壊れそうな嫌な音を出します。 そんなわけで、私は、いったんチャージしたら、何があろうとシャッタースピードは変更しません。 Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 このType 010の場合、フィルム巻き上げは二重露出防止装置が付いているので、かなり無造作に巻き上げてしまいますが、これより古いタイプのレチナはそうはいきません。 フィルム巻上一回に対して、シャッターレリーズ一回が、(多重露出ではない)普通の撮影のパターンだと思います。 ところが、戦前のレチナは二重露出防止装置が付いておらず、一回の巻き上げに対して何回でもシャッターが切れてしまうのです。 うっかりしていると、二重露出、三重露出は簡単にできてしまいます。 この手の古いカメラでは、フィルムをいつ巻き上げるか?はきちんと統一しておかなければなりません。 シャッターを切ったら即巻き上げ、あるいは撮る直前に巻き上げ、どちらかに統一しておかないと、二重露出写真を量産してしまいます。 巻いたかどうか不安だったら、とりあえず巻き上げておけ、というのが一番いいです。 一齣無駄にするかもしれませんが、二重露出してしまうよりはマシです。 Kodak Retina I Type 010 / Kodak US.Ektar 50mm F3.5 Konica Minolta Centuria Super 100, Scanned with EPSON GT-X750 すべての儀式を終えたら、ファインダーを覗いてフレーミングします。 Type 010あたりのレチナでは、厳密なフレーミングは至難の業です。 覗いてもさっぱりよく見えません。 まるで、鍵穴から覗いているような感覚です。 どこまでフレームに入って、どこからアウトか?という境界が実にファジーです。 というわけで、「レチナを連れて散歩」というのが、いかに綺麗ごとか分かるかと思います。 「レチナとお散歩」というと、お気楽で脳天気なイメージですが、実際のところは、「レチナと七転八倒」、「レチナと修行」、「レチナと勝負」に近くなります。^^ レチナは軟派な外観とは裏腹に、たいへん硬派なカメラです。 硬派だけに、ばっちり決まると素晴らしい写真が撮れます。 もし、もっとレチナのことを知りたい、という物好きな人がいたら、下記を覗いてみてください。 Jewels of Nostalgia / Lovely 35mm Folding Cameras http://www.wa.commufa.jp/~xylocopa/cc/ Type 010あたりの距離計なしレチナは人気がないので高くありません。 だいたい、1万円~2万円ぐらい。 1万円以下で入手できる場合も多いようです。 LOMO LC-A、SMENA-8Mに比べれば、格段によく写ります。 フィルムを何本か無駄にしていくうちに、写真の腕が上がるかどうかは謎ですが、カメラのことが原理から理解できるようになるのはたしかです。 インテリアとしても美しいですし、愛玩用としてもかわいいですから、おひとついかがですか。^^
by xylocopal2
| 2006-08-30 23:20
| Hardware
Copyright © 2004-2010 Xylocopal All Rights Reserved
|
by Xylocopal "Photo Gallery"はこちらにあります。 猫写真は"Cimarron & Crola" / "Dancing Cat Norimaki's Website"にあります。 機材ネタは "Hardware Index"に一覧があります。
カテゴリ
Sky Cats Square Format Monochrome Rusty Scene Seasons Scenery of the City Old Buildings Light and Shadow Flowers & Plants Animals & Birds Snap Favorites Portrait Montage Hardware Hardware Index Software LINKS
最新のトラックバック
以前の記事
2015年 06月 2015年 05月 2013年 04月 2010年 07月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 お気に入りブログ
NEKO PHOTO 猫と6ペンス ぽげろぐ Hawaiian Br... +photo のらねこ。 (野良にゃ... R&M Some Night &... チリン♪草 人を撮ろう Roc写真箱 ゴマグリモナカ inside out 魔王の独り言 ~MAOU... 僧索記なる、はるのよしなしごと 日々GILIGILI Black Face S... Fragment Nob's Favour... Fleurs ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
その他のジャンル
|
ファン申請 |
||