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2006年 06月 03日 縞々ゼブラなフレクトゴン


EOS 30D / TAMRON SP AF28-75mm F2.8 XR Di
ISO100, Av -2.0EV, F4.0, 1/25sec., WB:Manual


eBayで落としたフレクトゴンが届きました。
Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8 M42。
Xylocopal's Photolog 2006/05/18 "Blue Flowers"で、「縞々ゼブラなフレクトゴンが欲しい」と書いた、まさしくそのレンズです。
APS-CサイズイメージセンサーのEOS30Dで使うと、焦点距離56mmとなり、なかなか使いやすいです。

フレクトゴンというのは、旧東独時代のツァイスが作っていた広角レンズです。
20mm、25mm、35mmの各焦点距離があり、1950年代初頭、アンジェニューとほぼ同時期に完成した、レトロフォーカスタイプ広角レンズの先駆的存在です。
それまでの対称型広角レンズでは、後玉が突出するため、ミラーが動く一眼レフでは事実上使えなかったのを、レトロフォーカスタイプとすることで利用可能としたエポックメイキングなレンズです。
135判用の他、中判用の50mm、65mmなどがあります。

それにしても、ツァイスの広角レンズは、伝統的に怪獣系の名前が多いですね。
ホロゴン、ビオゴン、ディスタゴン、トポゴン、フレクトゴン。
怪獣大行進、南海の大決闘です。
ツァイスでは、カネゴン、ナメゴンが現れる前から、~ゴンを使っていましたから、ネーミングとしてはツァイスの方が先輩格です。
円谷プロには、広角レンズ馬鹿がいたのではないかと想像します。
シネカメラ用にもディスタゴンなどツァイスのレンズは多かったですから。


このフレクトゴン35mm/F2.8、eBayで$72で落としました。
送料が$20かかっていますから、合計$92。
国内で買うよりは安いですが、何しろebayのことですから、ブツが届くまで、実際に撮ってみるまで、これが妥当な価格か否かは分かりません。
ebayでものを買うのは、国内ネットオークションに比べると、格段に博打的要素が強くなります。
ebay愛好家というのは、間違いなく潜在的ギャンブラーです。

出品者はオーストリア・ウィーン在住となっていましたが、届いた航空便には、ウクライナの消印が押してありました。
発送地ももちろんウクライナです。
このあたりの訳の分からなさが、ebayの奥深いところです。
おそらく、ウィーンの中古カメラ業者がウクライナの業者と連携しているのでしょう。

ウィーンという街は、かつては西欧と東欧の接点となる都市でした。
一応、NATOに所属する自由主義陣営の都市ですが、地理的な位置からいえば、完全に東欧です。
旧東独より、さらにハンガリーやチェコに近いのがウィーンなのです。
そのため、ウィーンにはNATOやKGBのスパイがたくさん集まったようです。
同時に、旧ソ連/東欧諸国のカメラやレンズも集まったようです。
田中長徳氏はウィーン在住が長かった写真家ですが、その著書には、ウィーンには数多の中古カメラマーケットが存在すると記されています。
今回の件から考えて、現代もなお、ウィーンは旧ソ連/東欧諸国の光学機器の一台集散地となっていることがうかがい知れます。

梱包は意外にもしっかりとしていました。
ebay経由の小包は、航空便のため、非常にコンパクトなパッケージになっていることが多いです。
中には、ろくに梱包材が入っていないこともあります。
今回のブツは、分厚いウレタンフォームとロシア語の新聞紙にくるまれており、これまで、ebay経由で届いた小包としては最上の部類でした。
ebay経由で届いたカメラやレンズに対しては、ある程度、諦念と虚無感を持って接するようにしていますが、今回はブツ自体もなかなか程度が良かったです。
ebayにしては、$72という価格にしては、まともな状態でした。

まず、レンズが綺麗です。
キズもなければ、クモリ、カビ、コーティング剥がれ、バルサム剥がれもありません。
ヘリコイドも適度な重さで、MFにはちょうどいい感じです。
う~む、奇跡のようです。^^
長生きしていれば良いこともあるということでしょうか。




EOS 30D / TAMRON SP AF90mm F2.8 Di Macro
ISO100, Av -0.7EV, F4.0, 1/13sec., WB:Manual


Flektogonという文字の左側に、妙なマークが付いています。
これは、VEB=VolksEigene Betriebe (人民公社)時代のCarl Zeissにだけ付くマークです。
戦前のものにも、現代のものにも付いていません。

レンズには、Carl Zeiss Jenaという文字が彫られています。
現代のツァイス製レンズには、Carl Zeissとしか記されていませんが、Jena付の方が本来の姿です。
私が持っている戦前のテッサーにも、Carl Zeiss Jenaと記されています。

Jenaとは、ツァイス発祥の地、旧東独領イェーナ市のことです。
ドイツの光学メーカーには、シュナイダー・クロイツナッハ、メイヤー・ゲルリッツ、イスコ・ゲッチンゲン、シュタインハイル・ミュンヘンなど、社名の後に所在地を入れてブランドとしているところが多いです。
メーカー所在地は、ミュンヘンなど大都市も多いですが、けっこう中小都市が多いのに驚かされます。
ライカの本拠地、ヴェツラーは人口5万人の小さな街ですし、ローライのフランケ・ウント・ハイデッケ社は人口25万人ほどのブラウンシュヴァイクにあります。
ツァイスの本拠地、イエナにしても、古い大学町ではありますが、人口は10万人程度の小さな街です。
このあたり、中世から城塞都市が発達し、現代もなお連邦国家であるドイツらしさが出ているような気がします。

東西ドイツ分断後、イエナ市が属したのは東ドイツであったため、東独ツァイスでは戦前に引き続き、Carl Zeiss Jenaのブランドを使ったのだと思います。
もっとも、商標権をめぐっては、東西ツァイス間で熾烈な争いがあったようで、東独製であっても、"Carl Zeiss Jena"を名乗らず、単に"aus Jena"となっているものもあります。
レンズ名さえもなく、aus Jena T 50mm/2.8というのがテッサーだったり、aus Jena B 75mm/1.5というのがビオターだったりします。
一方、西独製ツァイスのレンズでも、Carl Zeissではなく、Zeiss Optonを名乗っているものがあります。
このあたりの経緯に関しては、Xylocopal's Weblog 2005/09/07 Carl Zeiss Jena Tessar 50mm F2.8にぐちゃぐちゃ書いてありますので、興味のある方は読んでみてください。


フレクトゴン35mm/F2.8は、5群6枚のレトロフォーカスタイプレンズですが、製造年代よって、大きく3つに分かれます。
最初のものは、1950年代初頭に作られた銀色鏡胴のものです。
次に作られたものが、今回入手した縞々ゼブラのタイプ。
年代的には1950年代後半~1960年代の製造といわれています。
最も新しいのが、1970~1980年代に作られたマルチコーティングのもの。
これは開放F値が半絞り明るく、F2.4となっています。

光学的には、年代が新しいものほど良いのだとは思います。
しかし、私は、この縞々ゼブラのレトロなスタイルが気に入ったので、MC35mm/F2.4はまったく欲しいと思いませんでした。
1950年代のレンズでは、こうした縞々ゼブラのものを良く見かけます。
M42マウントの35mmだけでも、エンナ・リサゴン、シュナイダー・クルタゴン、イスコ・ウェストロン、シュタインハイル・クルミゴン、シャハト・トラヴェゴンなどがあり、その多くはフレクトゴン同様の縞々ゼブラです。
もう一本、~ゴン系の名前で縞々ゼブラのレンズを手に入れたら、おそらくコレクションを始めると思います。
とても危ないので、買わないようにしています。^^





フレクトゴンの特徴は、恐ろしいまでの近接撮影能力です。
ヘリコイドは360度近く回転し、レンズ先端は2cmぐらい飛び出ます。
最短撮影距離は18cmです。
Flektogon 20mm F4の場合は、何と15cmまで近接できます。

ハーフマクロの"Canon EF50mm F2.5 コンパクトマクロ"の最短撮影距離が23cm、等倍マクロの"SIGMA MACRO 50mm F2.8 EX DG"の最短撮影距離が18.8cmであることを考えると、35mmと50mmの画角差はありますが、ハーフマクロ(1/2倍マクロ)ぐらいの近接能力があると考えられます。
普通は、ここまでヘリコイドを伸ばすと、諸収差の補正が困難になり、無限遠との画質差が大きくなるので、リミッターをかける意味で最短撮影距離を設定するのですが、さすがはツァイスです。
「ドイツの科学は世界一ィィィ!」ですね。^^



Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8
ISO200, Av -0.7EV, F5.6, 1/200sec., WB:Auto


19cmまで寄った写真です。
18cmまで寄れるのですが、三脚がつかえて、これ以上寄り切れませんでした。
ここまで寄ると、レンズ前3~4cmあたりに被写体があり、ライトを入れるのが難しくなります。
さすがに周辺は流れていますが、たしかに、ハーフマクロ程度の近接能力はあります。




Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8
ISO200, Av -0.3EV, F2.8, 1/500sec., WB:Auto


絞り開放で撮ったもの。
この距離で開放ともなると、さすがにボケボケです。
とはいえ、ピントが合っている部分は充分にシャープで、シュトロハイム少佐でなくても「ドイツの科学は世界一ィィィ」と叫びたくなります。^^

発色は落ち着いています。
輝度的には充分な明るさがありますが、色飽和は起こしていません。
こういうのを「渋い発色」と言うようです。

西独製オプトンテッサーほどガチガチではないですね。
東独製テッサーを何本か持っていますが、それに比べても、はるかに柔らかい描写です。
この甘い描写は気に入りました。




Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8
ISO100, Av, F4.0, 1/400sec., WB:Auto


1~2段絞った方が描写が安定します。
まぁ、どのレンズでも同じだと思いますが。
これぐらいの距離、絞りだとボケはあまり綺麗ではありません。
特に左下部分は不可解な流れ方をしています。
ドイツの科学はどうなったんだ?と聞きたくなります。^^




Canon EOS 30D / Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8
ISO200, Av -0.7EV, F8.0, 1/200sec., WB:Auto


中距離の描写は落ち着いています。
なかなか渋くていいですね。
銀塩カメラにつけて、コニカミノルタ・センチュリアスーパーで撮りたくなるトーンです。

左下部分は流れていません。
フォーカスアウトしたときに出やすい、つまり、非点収差が多いのかもしれないです。
ドイツの科学といえど万能ではないようです。
もちろん、現代のツァイスレンズでは完璧に補正されているはずですが。

このフレクトゴンは、マウント後部のピンを押すと絞りが閉じる仕掛けになっています。
私が持っているM42マウントアダプターは、このピンを押さない構造となっているので、普通に取り付けると、常時絞り開放です。
フォーカシングをするにはこれでいいのですが、絞って撮るときはどうするのか?
幸いなことに、手動絞りレバーが付いていました。
シャッターを切るときだけ、このレバーを指で押せばいいわけです。
ただ、レバーサイズが小さいため、押すたびに指に食い込み、少々痛いのが欠点です。^^

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その他作例
 Xylocopal's Photolog : 冬枯れの森にて
  http://xylocopal2.exblog.jp/5351992/

 Xylocopal's Photolog : 名古屋市市政資料館 2006年秋
  http://xylocopal2.exblog.jp/4722508

 Xylocopal's Photolog : 神域にて
  http://xylocopal2.exblog.jp/4422240/


最後に、どうしても博打を打ちたいという方のために「物欲の館」を紹介しておきます。
オーストリア・ウィーンのカメラ店です。
ウクライナ発の航空便を送りつけてきたりします。

 CameraMate Web Shop
  http://www.cameramate.com/

ebayにも出品しています。Web Shopで買うより、多少は安いです。
信頼が置ける安心な店かどうかは不明です。
とりあえず、今回は大丈夫でした。

ウィーンという立地を活かした品揃えが楽しい店です。
東欧、旧ソ連方面のカメラやレンズが多いです。
その他にも面白いものが色々あります。
Super Angulonではない、ただのAngulon 35mm F2.8なんて、とっても欲しいなぁ。^^
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by xylocopal2 | 2006-06-03 15:38 | Hardware
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